アメリカの大学に留学するには、TOEFL iBT®テスト、SAT®(Scholastic Assessment Test)、ACT®を、大学院に留学するには、選考に応じてGRE®(general)、GMAT®(business schools)、LSAT®(law schools)、MCAT®(medical schools)などのいずれかのスコアを提出しなければなりません。各試験とも数学の問題が出ます。入学後の授業でも数学が必要です。英語のmath termsに慣れ、英語で数学をできるようにしておかないと苦労します。
日本の英語教育の弱点の一つは、数学などの他の教科と連携がないことです。日本の大学入試で出題される問題は、SATやGREのそれと比べるとかなり難しいのですが、そのような入試を突破していながら、英語で数字を言われると聞き取れない大学生をよく見かけます。かく言う50年前の筆者自身もそうでした。英文学修士号取得直後に踏んだアメリカの地で最初に立ち寄ったキャフェテリアで、数学どころか2桁の数字さえ聞き取れませんでした。
その後の1年は数字との格闘です。クラスメイトとレストランで食事をして代金を払う際にあった光景です。グループの中で計算の速い人が、それぞれのtaxとチップを含んだ計算を手際よくやってくれるわけですが、かなり早口なので全くお手上げでした。今のように計算機能がある携帯電話が無く、英語で言われた数字を瞬時に計算できないと生活に支障が出た時代でした。本当に情けない思いをしました。
日本人の平均的な数学の能力は世界でも誇れる高さであり、数字、数式を見ればなんていうことはないのに英語で言えない、聞き取れないというのではあまりにも残念です。現在では小学校から英語を習い始めているのですからなおさらです。次の数字や数式を英語で言えますか?聞き取れますか?
最初に数字です。下の数字を言えますか?1~999まで数える事ができて、なおかつ,thousand、million、billion、trillionを知っていれば言えます。本コラム第126回の冒頭で記した数字の読み方を参照して言ってみましょう。(*1)
第126回 How to Say Years in English? 揺れる年号の読み方-“Tokyo 2020”どう読む?
そして実際に使ってみることです。数字一つとっても聞き流すだけの学習方法では限界があります。1桁の数だからと言って侮るなかれ、聞き取るのに意外と苦労します。使ってみないと身につきません。(*2)
3
43
243
5,243
35,243
935,243
7,935,243
67,935,243
567,935,243
2,567,935,243
52,567,935,243
452,567,935,243
5,452,567,935,243
65,452,567,935,243
365,452,567,935,243
次の数字・数式を英語で言えて聞き取れますか?(*3)
また、意外と知らないのが2次元と3次元の形(shapes)です。円、楕円形、長方形、正方形、三角形、ひし形、台形、円筒形、円錐形、ピラミッドなど、日常コミュニケーションではよく使われます。(*4)
もちろん、数字やshapesだけではありません。非常に簡単な物事を英語で何というか惑うことがあります。例えば、「ナマズ」、「おたまじゃくし」、「アイスキャンディー」、「どんぐり」などはお馴染みですが英語で言えますか?(*5)アメリカの地を初めて踏んだ筆者は言えませんでした。幼稚園・保育園児や小学生の英語で悩んでいる保護者からよく相談を受けますが、筆者の答えは簡単です。幼児や児童が毎日手に触れ学習することを英語で何というか探してみることです。インターネットで調べれば発音も含めてチェックできます。教材も沢山あります。上記に挙げた数字・数式、生物、物事の名称は、子供達が日々の生活で触れているものばかりです。
筆者は大垣市にある幼稚園から英語プログラムについての相談を受けて早くも10年目になりますが、幼稚園のカリキュラムと連動させ、園児が目にし、耳にし、体で触れる物事をベースに英語カリキュラムが出来上がりつつあります。現在のところ1,000以上のオリジナル語彙表現があり、中には大学生でも言えないであろうというものも含まれています。実際に触れているものですから、無理なく覚えられます。
▲ Kiitos Garden 幼稚園・保育園制作のオリジナル教材
筆者が教鞭を執った大学では、2年次、3年次の学生に専門分野のリサーチ・ペーパーとポスター・プレゼンテーションを義務付けました。コンピュータサイエンス、生命科学、薬学関係の素晴らしいリサーチですから、当然、数式が出てきます。しかし、そこに至るまでの1年次の段階では、上記で記したような簡単な数字・数式が言えずに戸惑っていました。非常に高度な数学の知識を持っていながら、小学生レベルの数字・数式に戸惑っているということは、小学校や中学校の英語の授業が、他の教科や課外活動と関係なく進められていたことを物語っています。
言語はコミュニケーションの一部です。コミュニケーションは森羅万象を指します。個別に存在するものではありません。英語の授業が他教科授業やクラブ活動と連動するようにしたらよいでしょう。筆者も現役の教員時代に、それを念頭に英語プログラムを開発し、実践しました。特に専門英語では、専門教科と連動するプロジェクトを行えるよう工夫し、成果をポスターセッションという形態で発表させました。セッションには専門分野の教授陣も参加し熱心に質問されていました。学生のfinal papersには教授陣の貴重なコメントが活かされ、充実した専門英語の授業になりました。(*6)
▲ 立命館大学生命科学部・薬学部Project-based English Programポスターセッション(2013年)
幼稚園から大学に至るまでこうしたコラボレーションが生まれれば英語教育は活性化します。Global Villageでは、第130回目で筆者が主張した意味でのGlobal English(es)が(*7)、ITと同様に生活基盤としてしばらく定着すると思われ、母語と並行して生活に取り込み慣れていく必要があるでしょう。少なくとも自分の母語文化を英語で表現できるようにしておくことが今の若者には求められます。数字・数式などはその筆頭にくる項目です。
アメリカの大学、大学院への留学となると、高度な数学用語を聞き取り、言えなければ授業についていけません。手始めに以下のようなサイトをチェックしてみましょう。
アメリカの大学で学部留学を考えている読者は、SATに必要なmath termsやformulaをチェックしましょう。
[PDF] SAT Math Must-Know Vocabulary
[PDF]SAT Math Must-Know Facts & Formulas
大学院GREのものもあります。
GMATやLSATのmath termsもGREのそれにほぼ準ずると思ってよいでしょう。医学部MCATのmathについては、
Physics and Math Review 3rd Edition
How to Survive MCAT Math Without a Calculator
などがあり、いずれも有料です。上述した通り、日本人の高校生や大学生のmath能力と知識をもってすれば十二分に対応できるので、英語で聞けて言えように訓練すればよいだけです。これらのテストのverbalのセクションの問題の中には英語の母語話者をも四苦八苦させる難問があり、日本人が高得点を上げるのは至難の技です。得意とするmathのセクションで良い点を取ってカバーするしかありません。
筆者自身1970年代にGREを受験した経験がありますが、少なくとも当時のGREのmath sectionの最初の方には、両手の指で算術できるレベルの問題があったと記憶しています。終わりの方になると質問文の中に結構難しいmath termsが並び、勘を働かせて何とか対応したことを思い出します。そんな経験からアメリカ留学を考えている学生さんにはmath termsやformulaを英語で言えて聞けるようにアドバイスしてきました。(*8)
外国語学習は一から始まります。母語話者の言語習得は乳幼児期から始まり積み上げられていきます。小学校などの英語教育も日常生活を含め、他の教科の学習と連動させることにより意義深いものになります。(*9)
外国への関心は10代後半頃から高まり、それに呼応して外国語への関心も高まります。成熟した母語話者になりつつある時期で、外国語学習においてもそれに見合うテーマに関心が向くのは無理からぬことです。筆者の場合は文学が好きでしたので、英語学習においても英文学の名著をそれこそ浴びるように読みました。アメリカ留学直前にはかなりの語彙力があると自負していました。でもその中には母語話者が幼少時に身につける多くの語彙が欠けていました。(*10)
どの国でも母語・文化は幼少期から積み上げられてきた言葉とその体系が基礎となって築かれています。そうした基礎が欠けた筆者の当時の英語力は砂上の楼閣のようなもので脆くも崩れ去りました。今ではネット上には無料のそうした基本語彙表現を学ぶサイトが沢山あります。
何度も繰り返しますが、聞くだけ、見るだけでは英語は身につきません。使う場を創生しましょう。数はとりわけ大切です。来年のオリンピック開催時には、あちこちのいろいろな場面で英語の数字が飛び交います。“Fifteen.”と“Fifty.”を聞き違った、言い違ったなどよく聞く例です。“How to count numbers in English”で検索すると沢山サイトが出てきます。それらを参照しながら使ってみましょう。
(2019年6月23日記)
(*1)日本人が英語の数で苦労するように、外国人も日本語の数え方に苦労しているので教えてあげましょう。日本語では1−9999まで数えられれば、後は、万、億、兆の単位さえ覚えればよいわけです。要は、5365,4525,6793,5243のように数字を4桁ずつ区切り、5365兆4525億6793万5243のように各単位内の1から1000までを数えるだけです。
(*2)1桁の数字でも“three”や“five”や“four”などを聞き落としたり、言えなかったりする事がよくあります。数字や数式のみならず、習ったことを実際に聞いたり、言ったりして使える場を創生して慣れる事が重要です。インターネットには無料サイトがたくさんあるので練習してみましょう。
(*3)
(*4)“Learn English – Lesson #36: Shapes – Singular and Plural, Pronunciation”
(*5)ナマズcatfish;おたまじゃくしtadpole;どんぐりacorn;アイスキャンディーpopsicleです。
(*6)『Readings in Science―in association with Nature 最新科学と人の今を読む』(鈴木佑治 2015南雲堂)は、Nature Newsの先端科学記事を基に、学生が所属するLabのテーマに連動したプロジェクトを行えるようにしたテキストです。簡単な数式を学習できる練習問題も入っています。
(*7)第130回「Onlineで大変貌 English in “Global Village”
(*8)1978年―2008年まで慶應義塾大学日吉、三田、湘南藤沢の3キャンパスで教鞭を執っていた頃、筆者の担当した授業で毎年結構な数の学生や卒業生がアメリカの大学院への留学相談に来てめでたく目的を実現しました。
(*9)『カタカナからはじめる小学生英語―「レッツゴー!」から“Let’s go!”へ(教育技術MOOK)』(監修・著者 鈴木佑治 2007年 小学館)は、小学生の日常生活と学校行事に連動するプロジェクト活動を通して英語を学習できるよう意図したテキストです。カタカナ表記の英語からの借入語を元の英語のスペルと発音に直して使えるように工夫しました。
(*10)大学1年生に英語で曜日と月を書かせたところ、多くの学生が“Wednesday”とか“February.”などでてこずっていたのを覚えています。英語は発音と綴方のギャップが大きく、母語話者は幼児期よりかなり時間を掛けて習っています。“Kids spelling training”で検索してください。
慶應義塾大学名誉教授
Yuji Suzuki, Ph.D.
Professor Emeritus, Keio University
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。
英語圏に限らず、世界の大学・大学院、その他機関で活用されています。また日本国内でも大学/大学院入試、単位認定、教員・公務員試験、国際機関の採用、自己研鑽、レベルチェック、生涯学習など活用の場は広がっています。
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