本コラム(For Lifelong English)は第134回の続きです。
「第8回科学の甲子園全国大会」優勝校は、海陽中等教育学校(*1)で、今年度もGlobal Ambassador Team from Japanとして2019 Science Olympiad National Tournament(SONT)に招待され、4 eventsにエントリーして善戦しました。今回はその前に行われた事前英語研修の報告です。(*2)
本英語研修の目的は、SONTでアメリカ人の高校生の精鋭と競う為の英語力を育成することです。SONTでは準備段階から実戦に至る全ての過程で、research、presentation、discussionなど、高度のacademic English skillsが必要です。筆者は、自身が開発・実践した「プロジェクト発信型英語プログラムProject-based English Program (PEP)」が最適と考え、そのテキストとして開発した『プロジェクト発信型英語-Do Your Own Project in English, Volume 1 & Volume 2』(Yuji Suzuki Nanundo)のVolume 1とVolume 2をベースに、本英語研修のSession 1とSession 2のシラバスを作成しました。本稿後部の参考資料として付けたシラバスの概要を参照しながらお読みください。
PEPでは、関心事(身近な関心事からアカデミックな関心事まで)につき様々なprojectsを組み、その全過程でresearch、presentation、discussionなどのskills(Volume 1=日常生活レベル、Volume 2=アカデミック・レベル)を伴う発信活動をします。(*3)SONTに参加する科学の甲子園全国大会優勝校チームにとっての関心事は2019 SONTでエントリーする4 eventsです。先ずは、チーム・プロジェクトの名称として、海陽中等教育学校(Kaiyo Academy)のモットー「明朗闊達」(”Upbeat and Freehearted”)を採用し、その下にForensics Project、Chemistry Lab Project、Write It Do It Project、Fermi Questions Projectの4プロジェクトを置きました。
Team Project「明朗闊達」
1. Forensics Project
2. Chemistry Lab Project
3. Write It Do It Project
4. Fermi Questions Project
この図式に従い、6月初旬に開催される2019 SONTまで2ヶ月を切った4月6日にSession 1を、その1ヶ月後の5月11日にSession 2を行って準備を進めました。(*4)
2019年「科学の甲子園全国大会」優勝校の海陽中等教育学校(Kaiyo Academy)は、前回で述べたように、2016年にも同大会で優勝して2016 SONTに参加し、今回の2019 SONT参加をもって直近3年間で2度目の参加ということになります。2016 SONTに参加した先輩達とコーチの先生からSONTの様子を聞き、アドバイスを受け、情報を集め、入念に準備してきたように見えました。2019年度を含めて13度も優勝しているTroy High SchoolのOfficial Home Pageを覗いてみると、先輩から後輩へSONTに関する貴重なノウハウが受け継がれてきたことが分かります。(*5)
本研修初日のSession 1当日、筆者らが指定された教室に行ってみると、2019年「科学の甲子園全国大会」優勝校メンバー8名が元気よく迎えてくれました。全員の表情に2019 SONTで良い成果を残したいという意欲、闘志、決意が溢れていました。事前にSOと2019 SONTのOfficial Sitesをしっかり読み、4つのeventsを決め、何らかの準備を進めていたようでした。従って、Session 1の[Step 1]のSOやSONTの趣旨説明や2019 SONTホスト校Cornell Universityの紹介などのオリエンテーションや [Step 2]のベイシック・コミュニケーション活動にあまり時間を掛けずに、その分[Step 3]以降の実質的プロジェクト活動により多くの時間を割くことができました。
今回の海陽中等教育学校(Kaiyo Academy)の生徒に限らず、昨年度の栄光学園中学校・高等学校の生徒にもこうした積極的な姿勢が見受けられ、「科学の甲子園全国大会」における歴代優勝校などの強豪校の間ではSONTへの関心が相当高まっているものと思われます。本稿が掲載される2019年10月の時点において、2020年「科学の甲子園全国大会」への出場を狙うチームの中には、来年度の2020 SONT Division C Event Tableをチェックし、それに向けた準備をし始めている所もありそうです。
こうした意欲は今回優勝校の生徒8名全員の本研修での英語学習に対する姿勢にも反映されていました。既述の通り、SONTに参加するには、SOやSONTのOfficial Home Pageや関連動画サイトにおける多量の文字や視聴覚情報を確実に理解して発信しなければなりません。それにはlistening, speaking, reading, writingの4 skills、更に、その上のresearch, discussion, presentationなどの高度なacademic skillsを要します。そのことを十分認識し、意欲的に英語学習に取り組んできたことが、本研修のSession 1とSession 2の活動中に実施された英語診断テストThe Diagnostic Test of English Skillsのlistening, reading, speaking, writingのスコアの高さに繋がったものと判断します。
英語ができるとかできないとかの次元を超えて英語で何かに挑戦しようとする意欲が英語発信能力を引き上げます。とりわけ、Session 2の[Step 1]では、筆者らが事前に特別な指示を出さなかったのにも関わらず、presentation用slidesを準備し、英語でpresentationして筆者らの厳しい質問に答えながら全員でdiscussionをしていたのが印象的です。(*6)Session 1からSession 2までは約1ヶ月間ありましたが、Session 1で気付いた注意点を踏まえてプロジェクト活動を行うことにより、Session 2での英語発信能力はもう一段階飛躍(leap)したのではないでしょうか。(*7)
▲ Presentationの風景
2019 SONTも終えた直後の6月6日、根本氏から以下のメールが届きました。
今年の海陽学園ですが、2競技で10位以内と素晴らしい成績でした。電車の中で思わずガッツポーズをしてしまいました。
Fermi Questionsで7位、Forensicsで9位という快挙です。(*8)ちょうど本研修のSession 1とSession 2で行った英語診断テストの結果(The Results of the English Diagnostic Test of English Skills)の結果を整理していた筆者も思わずガッツポーズをしてしまいました。テストの結果・講評に喜びの感想を添え、根本氏に返信しました。
根本さん、鈴木です。(readingとlisteningの)データありがとうございます。私は今回(のテストでは)、発信力(writingとspeaking)に注視しました。科学の甲子園の表彰式から今回、海陽中等教育学校は意気込みが違うなと思っていました。SONTの意義と価値が痛いほど分かったのでしょう。今回は、残念ながら科学の甲子園全国大会で優勝できなかった学校にもSONTの意義と価値を理解していた高校が見受けられ、(わけても)海陽はしっかり準備してきたとみえて受信力・発信力がそうした意欲とともに増したのでしょう。Session 2でのpresentationについてですが、今回の海陽学園は(そうするように特別指示されなかったのにも関わらず、生徒さんの中には英語のslidesを作るなど)しっかり準備していました。案の定presentationはとてもpowerfulでした。私の経験では、presentation力とcommunication力は一致します。そこで(speaking能力のチェックでは)現地で友達作りが出来るか(in casual, informal settings)、授業のような場でdiscussion出来るか(in formal, academic settings)の2つのsettingsからチェックしました。今回の素晴らしい結果と符合しますね。以下、全スコアを送ります。どの生徒さんも、今回は、大会中もオフの時も相当積極的に現地の人とコミュニケーションしたものと見受けられます。(原文一部修正)
ここでは個々のスコアの詳細を割愛しますが、全般的に非常に意欲的に英語に取り組んできたことが伺え、概ね4つのスキルがバランスよくできています。特に、speakingにおいては平均85%、90%以上が4名もいました。(*9)筆者が注目したのは、文法、語彙・表現などの知識が十分ではなかったのか、readingやwritingなどの文字情報の受信と発信能力がやや苦手とする生徒が、speakingでは最高得点94%を取ったことです。(*10)英語学習への取り組み方が発信型に切り替わっていることを窺えさせる良例です。このチームのメンバーだけなのか、あるいは学校全体なのかは定かではありませんが、ある一定期間は発信力強化の取り組みが行われてきたのでは、と思わせる好成績です。何れにせよ、その鍵は英語に対する意欲の高さであることは間違いありません。メッセージを発信することを目標にしたことで、言いたいことと英語力のギャップを認識し、そのギャップを埋めようとする意識が高まった結果でしょう。
8名の生徒は広大なCornell Universityのキャンパスを体感し、2019 SONTを戦い抜いたことで、サイエンスについてはもちろんのこと、英語学習についても世界レベルを意識したことでしょう。以前にも述べましたが、TOEFL iBT®テストで計測された日本全体の英語力はアジアでは最低レベルです。サイエンスの世界で生き抜こうとしたら英語発信力は必須です。これからは、それを念頭に自分の好きなテーマを英語で追及するプロジェクトを行ってください。一案として、ネット上でアクセスできる主要学術学会における研究に関するニュースを読んで、プロジェクトをしてみてはどうでしょうか。
Nature News & Comment
Science News
Science Daily
Philosophy of Science(*11)
Latest Stories-National Geographic
Social Science news
Chemistry World
Physics news
Mathematics news
Engineer
Medical Science News
Neuroscience News
Biology
Psychology Today
Articles on Geometry
Geology.com
Computer Science news
Space News
Astronomy Now
Archeology
Language-Latest news and comment
参考までに、筆者は、一番上のNature News and Commentから10編を選び、『Readings in Science―in association with Nature 最新科学と人の今を読む』と称するプロジェクト発信型テキストを執筆しました。(*12)課外活動の一環として、上記のリストの中から関心に合うジャーナルを選び、興味を引く記事を読んでリサーチしてみたらどうでしょうか。(*13)2020 SONTのSTEM(Science, Technology, Engineering, Math)の準備にも役立つでしょう。
海陽中等教育学校(Kaiyo Academy)の2019 SONT参加者は、前回と今回に亘る本稿と同時期に掲載されるインタビュー記事でも明らかなように、英語学習に一層のモチベーションが湧いたことでしょう。今学年度の終わり頃にTOEFL iBTテストを受けその後の進捗状況をチェックすることを勧めます。
(2019年9月24日記)
[参考資料:本英語研修シラバス](活動メモ付き)
English Training Sessions for Global Ambassador Team From Japan,
2019 Science Olympiad National Tournament (SONT)
Sponsored by CIEE Japan(*14)
-Yuji Suzuki(*15) and Hitoshi Nemoto(*16) –
2019 SONT Global Ambassador Team from Japan:
Kaiyo Academy, The Winning Team in Kagaku no Koshien 2019(*17)
Session 1
From 9:30~11:30, April 6, 2019. At Kaiyo Academy,
[Step 1] Know more about SO and 2019 SONT.(20minutes)
References:
SO
2019 National Tournament
Cornel University Hosting 2019 SONT
The 2018 SONT Winning Team
[Step 2] English Diagnostic Test: Listening, reading, speaking and writing skills
1.Reading(Based on TOEFL ITP Sample Test)
2. Listening(Based on TOEFL ITP Sample Test)*Postponed till Session 2 due to mechanical failure.→See [Step 1] in Session 2)
3. Writing(Write a short essay on your goal in 2019 SONT-150 words)
4. Speaking(Checked in [Step 3] Warming-up in Session 1 and [Step 1] Presentation and Discussion in Session 2)
[Step 3] Warming up. Get ready for chatting with the US participants in 2019 SONT.(10 minutes)
*Suzuki checked their speaking skills in casual informal settings.
[Step 4] Skim through all Division C events in “SONT 2019 Event Table”. Decide which events you prefer to compete in, and assign two of you to each event. Also name your team project.(30 minutes)
*Selected four events out of twenty-two listed under the following five fields: Life Personal and Social Science(5 events); Earth and Space Science(4 events); Physical Science and Chemistry(5 events); Technology and Engineering(4 events); Inquiry and Nature of Science(4 events).
1.Forensics(Physical Science and Chemistry)
2. Fermi Questions(Inquiry and Nature of Science)
3. Write it Do it(Inquiry and Nature of Science)
4.Chemistry Lab(Physical Science and Chemistry)
*The Name of the Project:「明朗闊達」(”Upbeat and Freehearted” Named after the school motto)*The Project Leader: XXXX
[Step 5] Each group should read the event guide for the event in charge, paying special attention to the game points, and discuss strategies and procedures for winning in the event.(20 minutes)
References:
SONT Division C Rule Manuals(Gr 9-12)
Forensics
Fermi Questions
Write it Do it
Chemistry Lab
[Homework for Session 2 on May 11, 2019]
1.The team should get together to read general information in the Science Olympiad Official Home Page.
2. Each group should read and discuss all necessary information regarding the event in charge.
3. In Session 2 scheduled on May 11,2019, each group ought to get ready for a talk on its project in progress.(10 minutes for talk and 5 minutes for discussion)
Session 2
From 13:30 to 16:00, May 11, 2019. At Kaiyo Academy.
[Step 1] Listening test and listening practice through“shadowing”(20 minutes)
[Step 2] Each event group gives a 10 minute talk on preparation in progress thus far with discussion afterward.(40 minutes)*Suzuki checked the students’ speaking skills in formal academic settings.
[Step 3] Each group should look into the details of the event in charge to make sure that no game points have been missed, and continue working on the project.(70 minutes)
References:
SONT Division C Rule Manuals(Gr 9-12)
Forensics
Fermi Questions
Write it Do it
Chemistry Lab
Good Luck! Enjoy the SONT Tournament!
(*1)海陽中等教育学校
(*2)本稿と同時掲載される、海陽中等教育学校の生徒とのスペシャル対談も参照してください。「第8回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―前編― 「第8回科学の甲子園全国大会」優勝校スペシャル対談 ―後編―
(*3)SFCとBKC時代の筆者関連著書・教科書については、「鈴木佑治(Yuji Suzuki)-本Amazon. co.com 」を検索し、参照してください。リストの内、筆者の著作は1990年以降のもののみ。
(*4)参考資料に付けた本研修プログラムのシラバスでは、Session 1とSession 2の間に約1ヶ月の期間があり、その間にコーチ医の先生とともに、生徒同士でプロジェクトを進めます。シラバスSession 1最後にあるホームワークがその指示です。
(*5)Troy High School設立1964年、Los Angeles 近郊のFullerton市の公立高校、在籍者約2,100名(内アジア系約50%)。SONTにて13回優勝。2000年にBill Clinton大統領提唱”a New High School”として選出される。文武両道でスポーツ選手も多く輩出しているようです。ちなみに、同市にあるCalifornia State University, Fullertonは、California State University System(UC BerkeleyやUCLAが所属するのはUniversity of California System)の優秀校です。
(*6)日本語のslidesを作成し、日本語で発表した生徒もいましたが、筆者の英語による質問にはしっかり答えていました。全て英語で発表した生徒はもちろんのこと、全員が2019 SONTで参加する英語の資料をしっかり把握しresearchをしていました。
(*7)オリンピックでは高校生などが大会中に新記録を打ち出すことがよくあります。全国高等学校野球選手権大会でも、選手が一戦一戦見違えるような成長を遂げています。英語学習でもそうした飛躍がよく見受けられます。
(*8)2019 SONT Division Cの総合成績・順位については次のサイトを参照してください。
Official Score Results for Division C
Rank Order for Division C
Top 6 Places for Division C
最後のサイトはeventごとの上位6位までをリストしています。海陽中等教育学校(Kaiyo Academy)はFermi Questionsで7位、もう少しでした。科学の甲子園全国大会の優勝校は、参加4 eventsで6位以内に入りこのリストに名を残したいですね。2015年の優勝校で第1回目本英語研修を受けた渋谷教育学園幕張高等学校はBungee Jumpで4位にBUNGEE DROPで5位入賞は入りましたが、当面の目標となりそうです。
(*9)Listening 平均85%(内4名が100%)、Reading 平均70.5%(内4名が83%=12問中10問正解)、Speaking 平均85%(内90%以上は4名)、Writing 平均61.8%(内80%が1名)。尚、8名中1名が海外滞在経験(1年間イギリス交換留学)を持つ。
(*10)慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで筆者と同僚の田中茂範氏らは、ACE(Action, Communication and English)というPEPの前身プログラムを開発し、placement testで一番下に属する学生の授業を担当しました。海外メディアの教育担当記者の目を一番惹き付けたのはこのレベルの学生たちによるpresentationで、New Year教育特集でも大きく取り上げられたことがあります。クラス全員が英語でresearch, discussion, presentationができるようになり社会に出て行きました。筆者らが知る限りでも、アメリカの大学院に進学した人が複数います。英語学習はまさにlifelongです。関心のある読者は(*3)に挙げた検索サイトをチェックしてください。そのサイトにリストされているいくつかの拙著に、他大学での成果も含めて記してあります。
(*11)文系と理系を分けては考えてならないことを考えさせる論文が掲載されています。プラトン、アリストテレスなどの古代ギリシャの哲学者から現代にいたる歴代哲学者の多くは科学者です。アメリカの大学、大学院への留学を考えている読者は、科学方法論(scientific method)の歴史に関する本を読んでおくよう勧めます。特に、科学、芸術に大きな影響を与えたmodernismやpostmodernismについてある程度の知識を持っておくとよいでしょう。
(*12)Nature News and Commentsの記事は無料で読めますが、テキストなどの出版用に使う場合は有料です。1編につき20万円で筆者のテキストの場合は出版社が10編で合計200万円の使用料を支払いました。テキスト出版には原稿使用料以外にも費用が掛かかる上、本の売れ行きは芳しくなく、出版業界は苦境に立たされていると聞いています。そこに電子媒体での違法コピーが出回るなど、コンプライアンスに抵触するケースが多発し、出版業界を更に苦しめてしいるようです。出版業界に限らず多くの産業は知的財産に依拠しており、気をつけなければいけない問題です。
(*13)専門英語の授業で使いました。プロジェクトで分かったことをNature News & Commentsにコメントとして寄稿するよう勧めました。
(*14)TOEFLテスト日本事務局
(*15)Refer to Yuji Suzuki
(*16)Head of CIEE Japan, as of August, 2019.
(*17)2019 Science Olympiad National Tournament
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