第142回「2019-2020 Coronavirus Pandemicで急遽In-personからOnline Educationへ変更を強いられるAmerican Colleges」で、2020年3月13日付と3月17日付けの記事に基づき、American collegesが急遽切り替えたonline educationの問題点に触れました。その後どうなったのでしょうか。今回は本稿執筆時5月20日までの2ヶ月間の展開を基にAmerican collegesの課題を探ります。
第142回では、学生側からonline educationが高額tuition and feesに見合わないという不満が寄せられていると述べましたが、案の定、その不満は返還要求に発展しました。伏線に高額tuition and feesへの根強い不満があります。21世紀に要されるskillsを持つworkforceの育成を謳いながら、その基盤のonline化が不十分であったということは、これまで掲げてきた21st Century Skillsの育成が不完全であったことになります。どう立て直すか個々の大学の動向が気になります。
Worldometer“Coronavirus Cases”によると、2020年3月13日時点での世界のCOVID-19感染者数は145,417人でしたが、本稿執筆中の5月21日時点では、5,083,411人になってしまいました。世界の多くの国々は外出自粛政策を採り、医療関係や食料品など生活必需品を扱う業種を除くほぼ全ての分野でテレワークを中心にonlineの在宅勤務を強いられています。医療専門家の多くは、感染者は更に増え続け、2次感染を繰り返しながら完全に消滅するのに1年ないし2年はかかるであろうとの見解を示しています。また、たとえ消滅しても、また別のウイルスが発生して同規模の災害をもたらす可能性は拭いきれません。
第142回でも述べましたが、アメリカの大学、大学院のtuition and feesはあまりにも高過ぎます。それだけではありません。生活費もプラスされるのです。アメリカ主要都市での生活費は住宅価格の高騰に伴い、かなり高額です。“College Tuition: What’s the Price Tag for a College Education?”によると、私立大学では、Tuition and Fees $36,880 + Room and Board $12,990 + Books and Supplies $1,240で、年間総額$53,980掛かります。州立大学では、Tuition and Feesは州内学生(in-state students)が$10,440、州外学生(out-of-state students)は$26,820で、その他の諸費用は私立大学とほぼ同額で、前者は総額約$24,000、後者は総額約$40,000掛かります。留学生はout-of-state studentsに分類され、年間約$40,000掛かってしまいます。
これはあくまでも全国平均の額で地域差があります。例えば、IVY Leagueの授業料は平均約$56,000で、主要都市やその近郊にある為に生活費は高くなります。Boston市でone-bed-room apartmentを借りると毎月平均$1,710、年額$20,000も掛かります。(*1)これに食費、光熱費、通信費、交通費などがプラスされ、年間の生活費は$30,000以上になり、授業料と合わせると何と年間$85,000(約900万円)にもなるのです。World Data“Average Income Around the World”によるとアメリカ人の平均所得は$67,000(約7,000,000円)で、それを約$20,000も超える額です。
アメリカではK-12(kindergarten-12th Grade 幼稚園―高等学校)が義務教育なので公立学校の学費は掛かりませんが、大学は公立であろうとも自分で工面しなければなりません。大学生の多くはstudent loansを組んでおり、“Student Loan Debt Statistics in 2020: A Record 1.6 Trillion”によると、4,500万人の学生が一人平均$29,200(約312万円)のローンを抱え、総額$1.6 trillion(約17兆1千億円)という途方もない額になるとのことです。義務教育ではありませんが、教育の機会均等の精神から逸脱する異常事態と言えます。そこに追い討ちをかけるようにCOVID-19 Pandemicが襲ってきました。大学は閉鎖され、online授業に切り替わり、授業が受けられなくなるという最悪事態は免れたものの、online technologyと授業内容の不備や不具合が生じ、高額tuition and feesに見合わず、不平、不満、不安(3密ならぬ3不)が掻き立てられます。借金を抱えてまで受ける価値がcollege educationにあるのか疑問視する声が一層高くなりつつあります。
日本の大学の授業料は公立大学で53万円(入学時81万円)、私立大学文系で77万円、理系で103万円(入学時文系110万円、理系144万円)(*2)です。アメリカの大学の授業料の4分の1程度ですが、平均所得は約440万円(約$41,000)ですから高額です。国も支援に乗り出すようで、大学教育無償化という動きもありますが、World Debt Clock.orgを見ると、日本は5月現在1114兆円の借金を抱え、さらに増え続けており、長期に亘って無償化が続くのか疑問です。(*3)アメリカとて同じで連邦政府の借金も各州の借金も増え続け、州立大学の予算は毎年削られそれに伴い授業料も上がり続けています。各大学はin-state tuitionの枠を大幅に制限し、その分out-of-state tuitionの枠を増やして対応しています。自転車操業に近い状態と言えそうです。(*4)
アメリカの大学生の多くはpart-time、場合によっては、full-timeの仕事について学費・生活費に充てています。しかし、今回のCOVID-19 Pandemicではその仕事の場も閉鎖されてしまいました。しかも、州外への移動が制限され、州外から来た学生は収入源が閉ざされ困窮生活を強いられているというケースが多々あると聞いています。勿論、連邦政府、州政府、自治体、大学当局も手をこまねいているわけではなく、独自の支援策を提供しています。
アメリカ連邦政府は$14 billion(約1.4兆円)の大学生支援策を発令しました。ところがTrump大統領は多額の寄付金(endowment)を集めている大学は支援を辞退すべきだと述べたのです。次のサイトを見ればわかるように、アメリカの主要大学は巨額の寄付金を集めています。“The 100 Richest Universities: Their Generosity and Comment to Research”次の2つのサイトにある日本の大学の寄付金額と比べると桁違いです。「寄付金収入が多い国立大学ランキング」、「寄付金収入が多い私立大学ランキング」
第131回で触れたように、その中でもHarvard University は群を抜き、2020年には$40 billion(約4兆円)です。Swedenの国家予算に匹敵する東京都の年間予算は13兆円ですから、その約3分の1弱に当たる膨大な額です。Trump氏に名指しで支援を受け取るべきではないとされたHarvardは、“Harvard to reject $8.7m in federal Aid After Trump Cites School’s Endowment”で報道されたように即辞退しました。豊富な資金があるからこそ出来たのでしょうが、多くの財政難に喘ぐ大学はそうはいきません。
しかし、次のサイトにあるように、そんなHarvardでさえ今回の封鎖による授業料や寮費などの返還を求める学生から集団訴訟を起こされています。
“Harvard Faces $5M class-action Suit After Coronavirus Campus Shutdown”勿論、Harvardだけではなく他大学も同様の集団訴訟が起こされているようで、以下のサイトがその様子を伝えています。“Students Are Filing Lawsuits and Organizing Strikes Against Universities”
集団訴訟を起こした理由は、記事中の“Is it fair for students to pay for the cost of in-person education in a brick-and-mortar classroom when the student is receiving online training from their own laptop?”および、記事中に引用されたSNSのコメント“I’m paying to be taught in person. I shouldn’t be forced to not learn anything and continue to pay my tuition for classes I’m being forced to take online, it’s not the same.”に集約できます。要は、tuition and feesは学校側が用意する教室、研究室、施設、機器などを使って行われるin-person trainingに課すもので、学生が自宅で自らのコンピュータを使って行うonline educationをもって同額を課すのは不当と訴えます。
殆どの大学は、寮費、食費などの返還については柔軟に対応するようですが、tuition and feesの返還については応じられないと言う姿勢を取っています。確かにそうした通常のサービスは施せないものの、COVID-19 Pandemicという非常の事態であることを理由に拒否しています。本音は財政的に返還できないからでしょう。巨額のendowmentを集める大学は何かしらの財政補助で対応するかもしれませんが、こうした事態はまた起きるかもしれず、今回できても次回同じ対応ができるという保証はありません。今回の集団訴訟における大学側の対応次第で寄付する側も寄付するかどうか慎重になるでしょう。
この記事は、最後に、“Higher education can most likely defend itself in court, but that doesn’t mean the controversy is over,” Lake warned. “There’s a business challenge and a public opinion issue, and it would be very unwise to turn your back on the energy that’s building around affordability and the cost of college, especially if litigation doesn’t succeed.”と述べています。大学側が勝訴してもそれで問題が片付いたことにはならない。ビジネス経営上どうなのか、また、世論がどう判断するか。何れにせよ、根底に異常なまでに高騰したtuition and feesに対する不満が湧き上がっており、それに背を向けるのは愚の骨頂であると手厳しく批判しています。
この記事から伝わってくるのは、(1)そもそも大学教育に掛かる費用があまりにも高くそれが常態化してしまっている事、(2)COVID-19 Pandemicでonline educationに切り替えたものの高額な授業料と見合うものではない事、(3)非常事態を理由に授業料返還せずに済んでも今後の大学経営における展望は暗く閉塞感は否めない事などの3点です。このままでは社会からの信頼を失いかねません。大学だけではなく社会全体が考えなければならない問題として、COVID-19 Pandemicがこれらの問題を浮き上がらせるきっかけになったことは確かです。総合的に問題を整理して解決策を探り、それを実行し信頼を取り戻す良い機会になるかもしれません。
課題を整理してみると、tuition and feesを下げ、online educationの質を上げ、21世紀のしっかりとした展望を示す、その為に何をするかです。今回のCOVID-19 Pandemicで、社会全体がこれから先の世界はonline化を避けて通れないことに気付きました。公的機関と民間企業におけるonline化は加速するでしょう。封鎖や自粛による業務停止が死活問題になる民間企業は、緊急時の備えのみならず、経費削減の為にも、通常業務の多くをonline化するでしょう。卒業生の多くを企業や機関に送る高等教育機関もその動きから目をそらす訳にはいきません。但し、何もかもonline化すれば済むということではありません。今回のような有事に限らず、カリキュラム全般においてin-personで行う部分とonlineで行う部分を精査し、両者がバランスよく有機的に連動できるよう見直すことです。
実は既に1980年代からこの動きはあったのです。1981年にIBMが最初のpersonal computer(PC)IBM 5150を販売したのを皮切りに、欧米の企業、団体、機関は、来たる21世紀をコンピュータの世紀と予測し、それに見合う新世紀のskillsとworkforce(労働力)について考え始めました。その流れに呼応して教育界もK-12(Kindergarten-12th Grade)の義務教育とその後の高等教育で培うべき新たなskillsの模索が始まりました。デジタル社会、グローバル社会で求められるworkforceに対応する“21st Century Skills”へのシフトです。21世紀になりほぼ20年、最新のK-12に関する概要および動向は、 “Partnership for 21st Century Skills (P21)”および“21st Century Skills: How Can You Prepare Students for the New Global Economy?”などのサイトに、大学に関しては“Delivering 21st Century Skills”などの無料サイトにあります。(*6)留学を考える読者は目を通してください。
要点のみまとめると、P21は幼稚園から高等学校までに取得すべきskillsとして、learning skills(=critical thinking, creativity, collaboration, communication)、literacy skills(=information literacy, media literacy, technology literacy)、life skills(=flexibility, leadership, initiative, productivity, social skills)などを挙げています。大学教育では、P21が提唱するskillsを受け、NACE(National Association of Colleges and Employers)(*7)は、critical thinking/problem solving、 oral/written communications、teamwork/collaboration、information technology application、leadership, professionalism/work ethic、career managementの6つのcompetences(*8)を推奨しています。“Delivering 21st Century Skills”では、new literacies (= data literacy, technology literacy, human literacy), cognitive competences(= systems thinking, entrepreneurship), cultural agility(文化的敏捷性), そして、critical thinking and problem solving(この項はNACEと重複)の4つのcompetencesを補足すべきだと主張しています。
これらK-12から高等教育までに習得すべき21st Century Skillsが主眼に置くのはグローバル社会のworkforceに応えることで、その基盤はonline化です。ここにもプラグマチズム(pragmatism)が根付いたアメリカらしさを感じますが、(*9)最高学府としての大学教育はこのworkforce育成の集大成を図るべく責任を重く感じている筈です。しかし、2017年に報告された“Twenty-First Century Skills and Global Education Roadmaps”などの報告書を見ると、K-12の段階での進捗状況はあまり芳しくないようです。高等教育も同様であろうことは容易に察せられます。第142回で取り上げた記事が、この度のCOVID-19 Pandemicに際し、インフラさえも整っていないことを指摘しているからです。
筆者自身は、現役時代、試行錯誤しながら第124回の後部で述べた「プロジェクト発信型英語プログラム」と称するモデルを試行しました。その元は2003年より数年行われた慶應義塾大学SFC「21世紀COE次世代メディア・知的社会基盤(Next Generation Media and Social Infrastructure)」の一環として“English e-Learning in Action”を立ち上げた実証実験モデルです。筆者が1990年より実践したプロジェクト発信型授業をベースに、幼児から大学、大学院、そして、社会人を含めたe-learningを導入したlifelongモデルです(*10)
大学、大学院のレベルでは、筆者が担当した英語プログラム、言語、コミュニケーション関係の全コースを対象に、この図式に沿うシラバスを書き、授業を行いました。黄色い部分のProject Module(P)、ピンクの部分のSkill Workshop Module(SW)、ブルーの部分のOnline Activity Module(O)の3modules(*11)で成ります。SWではbasic skillsと知識を学び、PではSWで学んだ事をベースに学生それぞれが問題発見・解決し発信します。PにもSWにもonline activityが伴います。このモデルに沿った英語プログラム「Project-based English Program」については、第142回を含めて本コラムで何度か紹介したので割愛します。(*12)英語プログラム以外に、筆者は、他の担当科目でも上記のモデルに沿って実施しました。SFCで担当した「言語と伝達」、「言語コミュニケーション論」、“English Diversity”、“English in Social Context”、「研究プロジェクトI & Ⅱ」、「大学院プロジェクト科目、認知、行為、メディア」です。(*13)そして、その後に赴任した立命館大学生命科学部・薬学部でも、専門課程の「専門英語Junior Project(JP)」と「大学院専門英語Graduate Project(GP)」もこのモデルで実施しました。(*14)
全クラスセメスター制で、毎セメスター1回90分の授業を13回から15回行いました。前半45分をSWと位置付けて基本的概念に関する講義を行い、後半45分をPと位置付けて学生のプロジェクト成果のpresentationとdiscussionに費やしました。毎週各自SWでの講義を参考に課外活動としてプロジェクトを進め、次週その成果をPでpresentationしました。(*15)アメリカのように各コース週2回あれば、1回目は講義に2回目はプロジェクトに割き、SWとPのどちらでもゆっくりdiscussionする時間が取れたのですが、週1回なのでその時間が足りませんでした。(*16)
このモデルで実施した授業のSWの講義の部分はonline化しやすく、SFCでは、まず、テキストをonline化し、かつ、当時村井純教授のSOI(School of Internet)プロジェクトの一環で筆者の講義を全てonlineで配信し、いつでもどこでもできるようにしました。しかし、全キャンパスIT化を掲げて発足したSFCであったからこそ可能であったのであり、2008年から2014年まで教鞭を執った立命館大学びわこ・くさつキャンパス(BKC)では、プログラムの枠組みは同じでも、SFCのように学生全員にラップトップ・コンピュータを持たせることはできないのでここまではできませんでした。(*17)現在では多くの学生が携帯電話やタブレット型コンピュータでインターネットに接続できるので事情は変わってきていると思います。
いわゆる学問をする上で基礎と考えられる、英語、(*18)STEM(science, technology, engineering, mathematics)科目(*19)などについては、既に、かなりinteractiveに学習できる多くのonlineコースが提供されています。これらはskill workshopと位置付けて自動学習で行える可能性を秘めています。専門コースにも基礎的なコースと高度の専門コースがあります。今、もし、筆者がかつて担当した“English Diversity”を担当するとしたら、onlineで配信されているphonetics、phonology、morphology, syntax, dialects, stylesなどに関する基礎となりうるコースを厳選し、SWに取り入れるでしょう。何せ、“linguistics online courses”で検索すると、かなり沢山のonline coursesが配信されており、使わない手はありません。課外活動でこれらのコースを予習するようにしておけば、授業活動はポイントの説明とdiscussionに割けます。(*20)
そんな事を考えながら、筆者は、自粛要請が発令された4月下旬から5月上旬に掛け、University of Texas Medical Schoolの脳科学学科(Department of Neuroscience)の新入生になったつもりで、“Neuroscience Online: Section 1 Cellular and Molecular Neurology”の全15講義(1-15Chapters)を勉強してみました。1日に約60分で1chapterずつ、全部で15日間掛けて終わりました。大変分かり易くできており、Sections 2、3、4も続けようと思わせる素晴らしいonline coursesです。しかし、同時に他に幾つかの科目のonline coursesを取るとしたら精神的疲度は限界を超えるでしょう。今回のCOVID-19 Pandemicでは、世界中の多くの学生が苦痛を味わったに違いありません。通常授業とonline coursesは別物です。(大学側が)言うは易し、(学生が)行うは難し、との印象を受け、工夫の余地ありです。
College educationに課せられたskills(critical thinking/problem solving/oral and written communications/teamwork/collaboration/information technology application/leadership/professionalism/work ethic/career management/new literacies/cognitive competences/cultural agility, etc.)は、筆者の実験モデルに当てはめるとPのproject活動で身につくskillsです。(*21)Pragmatismの国アメリカでは、1900年代初頭よりJohn Deweyらによる project-based learningの発想はあったようですが、本格的にこの名前を掲げたのは意外にも遅く、2011年にThomas Markhamの試みが最初との報告があります。しかし、実際にはそれ以前に定着していたと思われ、例えば、筆者自身が1970年代に受けたGeorgetown大学・大学院博士課程のseminarsはproject-basedで進められていました。Markham氏はK-12のSTEM教育にこの手法を取り入れた最初の試みということでしょう。要は、知識を詰め込むだけではなく、projectを通してより総合的に学び、同時にcritical thinking、collaboration、problem solvingなどのskillsを身につけるということです。
今回のCOVID-19 Pandemicによる封鎖(lockdown)や自粛(shelter-in)で、上述した通り、社会全般にonline活動が増え、workforceのonline化は加速するでしょう。筆者のモデルにもある通り、SWとPはOと連動しています。SWにもPにもonline activityがありますが、(*22)online以外のactivityと補完関係で繋がり、特に上記の目標skillsに関しては、online activityのみで行うのは不可能です。企業活動においても全ての活動をonlineで行うのは不可能であるのと同じです。どんなに進んだICT(information and communication technology)も、五感のうちの視覚情報と聴覚情報までの送受信は取り扱えても、触覚情報、味覚情報、嗅覚情報の送受信を扱えません。
ましてや、今回のCOVID-19 Pandemicにより急遽行われたonline活動では、その視覚情報と聴覚情報の送受信にも不具合が生じたようで不満が噴出するのは当然です。私たちの日常生活では外食する際には、インターネットの情報サイトを参考に、レストランを選び、実際に赴いて触れて、嗅いで、味わうなど、online活動を上手く取り入れています。教育においても同じで、online educationかin-person educationを二項対立(dichotomy)的に考えずに、両方を上手く融合させることにより、21st Century Skillsの習得を目指す方向に舵を切ることになるでしょう。キーは“incorporating online activity in regular curricula”です。上記の筆者のモデルは、その試みの一つで、不完全ながらも実践しながら感触を掴めたのは確かです。(*23)
アメリカはいかなる分野においてもフロンティア精神が旺盛で、このためのskillsが21世紀のフロンティアに必要不可欠であることを認識するや、必ずやり遂げるでしょう。アメリカにとってAIとITはフロンティアであり、今回のCoronavirus Pandemicによるキャンパス封鎖で余儀なくされたonline化への移行に伴う様々な欠陥を整理し、同時に21st century skillsの達成に向け、各大学が本格的なカリキュラム改革をするものと思われます。但し、その費用は誰もが受けられる(affordable)ものでなければなりません。既にGoogleなどの巨大IT企業が、Google Universityなどを立ち上げて、いつでもどこでも誰にでも安価で大学教育を提供できることを謳い文句に参入し始めています。大学がonline化を導入し、安価な大学教育を提供できるようにするか、IT企業が大学でのin-person教育の利点を取り入れた安価な教育を提供できるようになるか、どちらが先か熾烈な競争が始まっています。あるいはこうした企業と大学がタッグを組むのでしょうか。何れにせよ、安価で21st Century workforceの育成ができるかどうかがキーワードです。日本の大学、企業も奮起されんことを望みます。
(2020年5月31日記)
(*1)“Apartment List National Rent Report”によると、ワンベッドルーム・アパートメントの平均家賃はSan Francisco市で$2,440、New York市で$2,150、Boston市$1,710です。
(*2)「大学学費どのくらい掛かる?」参照。
(*3)各国の財政状況は表中のNational DebtとGDPを比較するとより分かり易く、日本はかなり深刻です。
(*4)1970年代には、他州出身の学生は1年でin-state studentの資格が取れましたが、最近は厳しくなったようです。州立大学で留学生の数が大幅に増えているようですが、out-of-state tuitionを払ってくれるからでしょう。
(*5)多くの学生が夏休み明けの新学年度に戻って来ないという事態もありえます。学生が来なければ大学経営は成り立ちません。
(*6)次の2つのサイトも無料で閲覧できます。“A 21st Century Framework for Quality College Learning Already Exists Our Challenge is to Connect Aspirations with Practice and Demonstrated Achievement”“ “Delivering 21st Century Skills-APLU”
(*7)NACE(National Association of Colleges and Employers)参照。
(*8)ここでは“skills”ではなく“competences”(能力)という用語を使っているのでそのまま使いました。
(*9)第98回「アメリカ諸分野に影響を与えたpragmatism(プラグマチズム)について」
(*10)第142回で述べたとおり、1990年創設の慶應義塾大学SFCは、30年後のグローバル社会がデジタル化されていることを想定し、発足しました。筆者もその考えを基に、担当の英語、言語、コミュニケーション関係全授業を構築し、実践しました。トライアル・エラーしながらの実証実験的な面もあり、完成モデルには程遠いものですが、一つのモデルに達しましたが、方向性だけは間違いないと感じました。
(*11)モジュール(module)とは、機能的に結びついた部分、または、部品のことです。
(*12)英語プログラムでのSWとPについては、(*21)を参照してください。
(*13)筆者のSFC在任中には何度かカリキュラム改変が行われ、それに伴い、これら言語学、コミュニケーション関連の専門課程コースの名称も変更されました。
(*14)立命館大学生命科学部・薬学部ではProject-based English Programの1年生から大学院の一環モデルとして完成しました。1年と2年生のプログラムではPとSWを週1回ずつでしたが、JPとGPは週1回で、前半45分をSWに後半45分をPに分けて実施しました。
(*15)SFCでの「言語コミュニケーション論」では講義用に拙著『言語コミュニケーションの諸相』を“English in Social Situation”では拙著Semantics of the English Modalsを立命館での“Junior Project”では拙著Science ReadingⅡ(MacMillan 絶版)と拙著Readings in Science(南雲堂)を使用しました。
(*16)第108回「アメリカの大学のセメスター制と日本の大学のセメスター制の違い」で詳しく書きました。
(*17)SFCの筆者の授業はインターネット会議システムを使い、英米の大学、大学院とjoint授業を行いました。BKC ではSFCと同じレベルのonline活動は出来ませんでしたが、SFCでは実現出来なかった学部1年生から大学院までの一環プログラムを実現でき、学生を中心に、英語教員、専門分野の教員、大学、学部の経営陣、コミュニティーのコラボレーションが得て活気的なプログラムに成長しました。筆者が退職した2014年にはonline化への意識も高まりつつありました。
(*18)第127回「変化する英語(1)-膨張し続ける英語の語彙」で述べたように、非英語圏における英語は、外国語ではなく日常使用する第二言語であり、ITと並ぶ基盤になりつつあると考えています。 “______ online courses”の空欄に該当する科目名を入れて検索してください。言語については、“English”“French”“Spanish”“Chinese”などを入れて検索してください。British Councilは“English for the Workplace” を提供しています。
(*19)留学を考えている読者は、“National STEM Learning Center Courses” を要チェックです。STEM online coursesについて興味深い情報が得られます。実際に受けてみてはどうでしょうか。TOEFL iBT®テスト、SAT®、GRE®などの準備になります。
(*20)“_______ online courses”の空欄に関心がある専攻名を入れて調べてみましょう。
(*21)筆者の「プロジェクト発信型英語プログラム」では、Skill Workshop Moduleで基本的skills(listening, speaking, reading, writing)を、Project Moduleでprofessional skillsと総称してresearch, presentation, discussion, debateなどのskillsを習得させました。Researchはcollecting data→observing data→hypotheses/theories→verifying hypotheses/theoriesの帰納法的processを踏ませました。その過程で21st Century Skillsのcritical thinking やproblem-solvingなどを習得できると考えました。英語以外の上述の授業も同じスタイルで進めました。
(*22)学生の多くはグループ・プロジェクトを行なっていたので、それぞれが筆者の公式授業サイトに成果をuploadして逐次更新・報告していました。このonline活動のシステム構築は、筆者の英語プログラム受講者がonline化プロジェクの一環として行ってくれました。1994年のことです。拙著『英語教育グランドデザイン』(慶應義塾大学出版)と拙著『グローバル社会の英語教育』(創英社三省堂)に詳しい報告があります。
(*23)学生の意欲、想像力、創造力の計り知れなさに圧倒されつつ1時間90分があっという間に過ぎてしまったのを覚えています。「学生の関心事中心」、「知は教室の外に」、「教室は知的産物を交換するマーケット・プレイス」、「一人一人が発信基地」、「教員はfacilitator」、などのコンセプトの下、全員が発信モードに変わっていきました。
(*24)Google Universityはtraditional colleges and universitiesに代わり安価な大学教育に匹敵するprogramsを提供すると宣言しています。
慶應義塾大学名誉教授
Yuji Suzuki, Ph.D.
Professor Emeritus, Keio University
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。
英語圏に限らず、世界の大学・大学院、その他機関で活用されています。また日本国内でも大学/大学院入試、単位認定、教員・公務員試験、国際機関の採用、自己研鑽、レベルチェック、生涯学習など活用の場は広がっています。
自宅受験TOEFL® Essentials™テスト
2021年から自宅受験型の新しいテストとしてリリースされました。約90分の試験時間、短い即答式タスクが特徴のアダプティブ方式の導入されています。公式スコアとして留学や就活などにご利用いただけます。
TOEFL ITP®テストプログラムは、学校・企業等でご実施いただける団体向けTOEFL®テストプログラムです。団体の都合に合わせて試験日、会場の設定を行うことができます。全国500以上の団体、約22万人以上の方々にご利用いただいています。
Criterion®(クライテリオン)を授業に導入することで、課題管理、採点、フィードバック、ピア学習を効率的に行うことを可能にします。