第160回 COVID-19 Pandemic以前に始まっていた日本人海外留学生数の激減傾向

COVID-19 Pandemic以前に始まっていた日本人海外留学生数の激減傾向

 

最近、日本人海外留学の数はかなり減少しています。特に英語圏で激減しています。依然として収束が見えないCOVID-19 Pandemic、ロシアのウクライナ軍事侵攻、異常気象、物価高騰、円安など若者たちの海外留学への意欲を削ぐものばかりです。特にCOVID-19 Pandemicと円安の影響が大きいのは確かですが、Statistics & Data: International Students in US by Country of Origin 1949/2020[1]でアメリカ合衆国における1949年〜2020年までの国別留学生数の推移を見ると、アメリカ留学においては2019年以前にその傾向が出ていたことが分かります。

終戦直後1949年−1950年の日本人留学生は265人(全米留学生総数26,433人:全体の約1%)でしたが、1999年−2000年には176倍の46,870人にまで伸び、それをピークにその後は減少し、2019年−2020年には17,544人(全米留学生総数:1,075,496:全体の約1.6%)にまで落ちています。

1999年-2000年の在米留学生総数は547,867人で、2019年−2020年には2倍以上1,075,496人に増加しています。それに反比例して日本人留学生はピーク時1999年-2000年 の46,870(全体の約8.5%)[2]から17,544人(全体の1.6 %)にまで減少してしまいました。1993年−1997年までは平均40,000人以上をキープしてトップの座を占めていましたが、現在は8位に後退しています。他方、中国人留学生とインド人留学生が急増し、トップの中国が372,532人(全体の34.6%)、2位のインドが193,124人(全体の18%)ということで、中国とインドで全体の約50%を占めています。

全米留学生約1,070,496人を全米4,726校に平均に割り振ると、各校に中国人留学生は約80名、インド人留学生は約40名、日本人留学生はたったの4名程度という計算になります。Most International Students National Universitiesを見ると、実際には留学生の多くは主要大学に集まるようで、これらの大学では全校学生の内、留学生は2〜3割を占め、全留学生の3割を占める中国人留学生と1割を占めるインド人留学生があちこちで見かけられる一方で、日本人留学生はほとんど見かけないということになります。[3]

この傾向はアメリカだけではなく、イギリスカナダオーストラリアなど他の英語圏の国々でも同じです。イギリスでは2022年に約600,000人の留学生がおり、その内の32%を占める143,820人が中国人留学生で日本人留学生は相当少ないらしく掲載されていません。カナダには388,782人いますが、内180,275人が中国人で、ここでも日本人の数は掲載もされていません。オーストラリアには456,811人いますが、内1位の中国人が129,542人で、日本人は4,961人で18位です。

これらの国々においても留学生の数は年々増加しつつあるので、そうした中で日本人留学生の減少は深刻です。冒頭に挙げた留学にとっての逆境は日本だけではなくどの国にとっても同じです。考えられる原因の一つに日本の学年(academic year)が4月始まり通年制であることが挙げられますが、現在では多くの大学が半期生を取り入れ、筆者が留学した1960年代と比べるとかなり改善されています。

日本で公表されているデータでも確かめてみましょう。その一つは独立行政法人日本学生支援機構(Japan Student Services Organization JASSO)の「日本人学生留学状況結果」です。2019年、2020年のデータを見てみましょう。2019年については、2019(令和元)年度 日本人学生留学状況調査結果 (JASSO)[4] 107,346人、2020年については、2020(令和2)年度 日本人学生留学状況調査結果(JASSO)1,487人で、COVID-19 Pandemicの影響で激減しています。2021年の日本人海外留学生総数はまだ公表されていないようですが、その数はさらに少なくなっていると予想されます。[5]

ちなみに、JASSOは日本在住の外国人留学生総数も公表しています。2019年は、Result of an Annual survey of International Students in Japan 2019 312,214人 (前年比4.4%アップ)です。2020年は、 Result of an Annual survey of International Students in Japan 2020 Pandemicの影響か、279,597人(前年比 10.4% ダウン)、2021年はResult of International Student Survey in Japan, 2021Pandemicが猛威を振るう中、242,444人(前年比13.3%ダウン)でした。 これを上記の2019年と2020年の日本人の海外留学生の総数、それぞれ107364人と1487人と比較すると、留学に関する限りインバウンド(inbound)とアウトバウンド(outbound)のバランスは前者に偏り相当のギャップがあるのが分かります。

2019年は確か海外旅行者の日本へのインバウンドは最高記録であったと思いますが、留学においても312,214人の海外からのインバウンドがありました。ところが同年でさえアウトバンドは107,346人でインバウンドの3分の1です。現下のPandemicでアウトバウンドが1,000人台になっていることは仕方ないとして、注目すべきは、こうした中でもPandemic前からは減りつつあるものの250,000人前後のインバウンドがあり、外国、特にアジア諸国での海外留学意識は高いものと思われます。[6]

ここ20年の一般的な傾向として、世界全体では海外留学生の数は増えているのに、日本では激減し、流れに逆行している印象が強く残ります。既述したように、冒頭に挙げたネガティブな政情、経済における要因は日本だけではなく多くの国で共通するものであるので、やはり日本全体で海外留学への熱意が冷めてしまった印象は拭えません。

中国もインドも総人口約14億人で、日本の総人口の約12倍もあるので留学生の数も多くなるのは当然です。それで在米留学を参考資料に、2019年−2020年の在米留学生総数をWorld Bank公表の国別総人口で割って見ると、日本人留学生は人口比で約0.001%(1,000人につき1人)です。中国人留学生は約0.026%(1,000人につき26人)、インド留学生は0.013 %(1,000につき13人)です。中国は日本の26倍、インドは10倍以上の比率になります。日本のすぐ上の7位の台湾は0.009%(1,000人につき9人)で日本の約9倍、その上の6位のベトナムは0.002% (1,000人につき2人)で日本の約2倍です。ちなみに、日本が全米1位、2位の数の留学生(46,870人)をアメリカに送っていた1999年−2000年当時の比率は0.003%(1,000人つき3人)でした。アメリカ留学に絞ってみてもそこから約3分の1に減少しています。この数値からも日本人の海外留学は低調であることが窺えます。

筆者が海外留学を勧めるのは、国を離れてみるとあらためて日本の長所・短所を再確認できるからです。また、色々な国の同年輩の人達と交流し共同プロジェクトもできます。交流を通し共同プロジェクトを通し、自らの強さ(strengths)と弱さ(weaknesses)が分かります。同時に他の国の人達にとっても同じことが言えます。それを理解することにより、良い意味での補完関係が生まれます。この関係は留学終了しそれぞれが各地に散らばっても今ではonlineで繋がります。留学時代に始めた共同プロジェクトはonlineで一生続けることができる時代になりました。時にはface-to-faceで会うこともあるでしょうが、onlineで全員が一同に介し意見交換ができますし、実際行われてもいます。筆者らが留学した時代は学位を取得すると、文通はしましたが、基本それで終わりでした。でもこれからは違います。交流と共同プロジェクトは一生続きます。その機会を与えてくれるのは留学です。 

アメリカ留学だけを勧めているわけではありません。93で述べたように自分の関心テーマの本場を目指すべきです。アフリカ関係のテーマならアフリカ諸国の大学でしょう。現在のアメリカは二分され、銃犯罪を初め深刻な社会問題を抱えています。しかし、多くの分野で世界各国から多くの研究者、学生を集めるハブであることには間違いありません。 

とは言えアメリカの大学の学費は異常なほど高騰(CBS News参照)し行く手を阻む障壁になっています日本人一般家庭の平均所得のほぼ2倍にもなる額に迫りつつあります。追い打ちをかけるようにPandemicに加えロシアのウクライナ侵攻、インフレーション、物価高騰、そして円安です。本コラム133でも述べたように筆者らが留学した1960年代後半は、ベトナム戦争、未だ発展途上国で平均所得が低かった日本、かつての敵国への厳しい目、超ドル高円安(1ドル=360円為替手数料込み400円)、加えて、厳しい外貨持ち出し制限などなど、様々な困難がありました。[7]渡米し1年も満たずに資金は無くなりましたが、その都度その都度、蜘蛛の糸のようなチャンスを掴み、なんとか活路を見つけました。どんな仕事でも実力を評価してくれるアメリカ社会の恩恵を受けました。本コラムにて筆者のアメリカ留学10年間にお世話なった先生方を紹介したMemorable Teachers10回シリーズのその1〜その10(133回第136回第138回第139回第141回第145回第147回第152回153第154回に滞在中の筆者の経済生活も綴ってありますお読みでない読者は参照してください。 

筆者らの頃はstudent visa(F-1 visa)では原則off-campus jobsは禁止され(但し、許可を得れば可)on-campus jobsのみ許可されていました幸いなことに、今でも変わりはないようです。Students and Employmentを読んでみてください。ここに書かれている規約を厳守すれば良いようです。 

以下参考までに、アメリカ留学中に留学生に可能であると思えるfinancial aidsを列挙します。 

一番良いのはscholarship(s)やfellowship(s)をもらうことです。志願する大学の公式サイトのFinancial Aids の項目にscholarships やfellowshipsに関する情報があります。Scholarships for international studentsScholarships & Fellowships Open to Non-US Citizen CandidatesNational and International Fellowships and ScholarshipsWorldwide Scholarships and Fellowshipsなども要チェックです。 

また多くの大学でwork-studyプログラムがあります。Work-Study for Undergraduate Studentsなどチェックしてみましょう 

大学院生にはTeaching Assistant (TA)の制度があります。筆者はこれで留学滞在中のほぼ9年間の学費生活費を稼ぎました、大抵、所属する研究科関連の科目のTAとして学部生に向けて授業を持つので専門知識を活かすことができ勉強になります。各大学研究科の公式サイトに情報があります。アメリカの大学学部1、2年生の授業の多くでTAが担当しています。Graduate Teaching Assistant: Job Description, Payもみてみましょう。 

ブルックリン研究所(The Brookings Institution)が在米留学生に関しThe United States is the global hub of higher education, attracting 21 percent of all students studying abroadと称する記事でも明らかなように、特に最近アメリカ政府はSTEM(science, technology, engineering, mathematics) 科目に力を入れており、STEM関連科目のTAのニーズは高いと思われます。調べてみてください。アメリカはどの大学もcommunitiesとの連携が多く、コミュニティーの住民に向けてUC Berkeley Extension のようなcontinuing, extension educational programsが設置され、STEMを中心に多くのcoursesが設置されています。こうしたcoursesinstructorsを募集することでしょう。 

他、アメリカの総合大学は様々な科目をオファーしています。日本の伝統芸術・文化、伝統スポーツなどに精通している人はその才能を活かせるかもしれません。例えば、空手、柔道、合気道などの有段者はStanford PE70のようなmartial artsの授業のTAができるかもしれません。筆者の場合、日本での英米文学で取得した修士号と日本語の母語話者ということで、外国語学部(科)で日本語を教えるTAの仕事を得ました 

また、約1,400のcommunity collegesがあり、日本の大学で修士号を持っていればcommunity college instructor credentialと称するコミュニティー・カレッジ教員資格が取れ、教えるチャンスが広がります 

第139回で述べましたが、筆者も1971California State University, Hayward (現East Bay)でTAをする傍ら、そのうちの一つのMerritt Community Collegeから要請を受け日本語を教えました。Campus Catalog に現在の設置科目があります。現在も日本語がありますが、最初にプログラムを開いたのは筆者です。周辺コミュニティーとの触れ合いの機会が増えて有意義でした。留学はcampus lifeにとどまらず、周辺社会の人々と交流できる絶好のチャンスでもあります。現下の逆況の中、日本の若者が海外留学することは将来の日本社会の活性化に寄与すると確信します。

  (2022年8月24日記) 

[1] さすがA I先進国アメリカですね。第二次世界大戦直後から現在までの76年間の国別留学生の数が一目で分かるよう非常に分かり易く提示されています。
[2] 但し、中国人留学生が全体の10.9%、インド人留学生が全体の10%で、それぞれ1位、2位でした。
[3] 1970年代、1980年代、1990年代、これらの大学で見かける留学生の多くは日本人でした。正規留学ではありませんがこれらの大学で開設された夏季英語研修は日本人で溢れていました。
[4] JASSOは日本の大学に留学届を提出した学生数を問い合わせ回答があった大学からの人数を集計したものです。回答がなかった大学もあり、また、届出がないケースもあることを考慮すると大まかな人数であると思われますが、誤差は想定範囲内でしょう。2021年と2022年のデータは公表されていないようです。1990年代中頃から2020年までの報告を見ることができます。
[5] 2022年のデータはまだ無いようです。
[6] 参考までに、アメリカ、中国、インドの海外留学状況のデータがあります。Trends in U.S. Study Abroad, US Students Abroad, Chine: The number of students that study abroad, Latest Chinese Higher Education study abroad stats, Indian Students Studying Abroad – The Latest Statistics
[7] 戦後70年…会社員の平均年収の推移によると1968年は62,000円当時の為替レートで約172ドルです。私立Harvard Universityの授業料は1500~2000ドル(当時のレートで540,000〜720,000円)、もしかすると、既に2,500ドル(900,000円)以上だったかもしれません。州立University of Californiaシステム全キャンパスの留学生を含む州外生(out-of-state)授業料は年間1,500ドル(当時のレートで540,000円)でした。日本の平均年収の約9〜12倍、絶望的な高さでした。第133回参照してください。授業料の高騰は大問題です。これについては別稿で述べます。

 

鈴木佑治先生
慶應義塾大学名誉教授
Yuji Suzuki, Ph.D.
Professor Emeritus, Keio University

 


上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。


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