アメリカの大学進学で志望大学を選ぶ際、38年の歴史を持つU. S. News & World Best Collegesが参照されます。日本の大手予備校などの大学偏差値ランキングは、各大学を志望する受験生の模擬試験などでの学力をランク付けしたもので、大学の中身の評価ではありません。U.S. Newsのランキングも受験生の学力(下表の評価項目Student Selectivity/ Excellence)を考慮しますが全体の7%で、残り93%は大学の中身に関するものです。How U. S. News Calculated the 2022-2023 Best College Rankingsに評価方法が記されています。Best Colleges Ranking Category Definitionsにあるように、The Carnegie Classification of Institutions of Higher Education’s Basic Classification systemに主として次の5種類に分け評価しています。
Best Colleges Ranking Category Definitions
National Universities: 443大学(公立227校、私立211校、営利5校)、全専攻学部を設置、修士号、博士号授与、研究重視。
National Liberal Arts Colleges: 国内210大学 (公立18校、私立192校)、学部教育強調、liberal arts専攻コース50%以上、学士号授与。
Regional Universities:国内604大学(公立239校、私立350校、営利15校)、広範囲の学部課程、修士課程を設置、稀に博士課程。North, South, Midwest, West4地区ごとに評価。
Regional Colleges: 国内374大学 (公立168校、私立192校、営利14校)、 North, South, Midwest, West4地区ごとに評価。学部教育強調、但し、liberal arts専攻コース50%以下。多分野の2年制準学士課程(Associate’s degree courses)が主流、4年制学士課程は限定的。
Specialty and other schools: 228大学、fine arts、instrumental music、 performing arts、business、 engineering、technology、textile arts等の学位授与。
(日本語編訳 鈴木)
大学の評価項目とそれぞれに対する配点は次の通りです。
Ranking Criteria and Weights
Ranking Factor (評価項目)
| National Universities Regional Universities Liberal Art Colleges Regional Colleges Indicator Weight Indicator Weight |
Graduation Retention Rates (卒業/2年次継続率) Average Six-Year Graduation Rate (6年間卒業率) Average First-Year Retention Rate(2年次進級率) | 22% 22% 17.6% 17.6% 4.4% 4.4% |
Social Mobility (ソーシャルモビリティ) Pell Grant Graduation Rate(低所得層対象補助金学生卒業率) Pell Grant Graduate Rate Performance (全卒業生に占めるPell Grant卒業生実績) | 5% 5% 2.5% 2.5% 2.5% 2.5% |
Graduation Rate Performance (事前予測比実6年間卒業率) | 8% 8% |
Undergraduate Academic Reputation (大学学部アカデミック名声) Peer Assessment Survey (他大学学長・入試担当部長アンケート評価調査) | 20% 20% 20% 20% |
Faculty Resources (教授陣) Class Size (1クラス学生数) Faculty Compensation(教授陣報酬) Full-time and Part-time Faculty with Terminal Degrees in their Fields(専任教員/非常勤教員博士号保有率) Percent Faculty that is Full-time (専任教員率) Student-Faculty Rate (学生対教員比率) | 20% 20% 8% 8% 7% 7% 3% 3% 1% 1% 1% 1% |
Student Selectivity /Excellence(入学志願者学力) Standardized Tests (SAT/ACT) Scores High School Standing in Top 10% High School Standing in Top 25% | 7% 7% 5% 5% 2% 0% 0% 2% |
Financial Resources Per Student (教育/研究/学生サービスに学生一人当たりに費やす金額) | 10% 10% |
Average Alumni Giving Rate (卒業生寄附金) | 3% 3% |
Graduate Indebtedness (卒業生連邦政府貸与) Graduate Indebtedness Average (各校連邦政府貸与額) Graduate Indebtedness Proportion with Debt (全卒業生比連邦政府貸与奨学生卒業率) | 5% 5% 3% 3% 2% 2% |
Total | 100% 100% |
(日本語注釈 鈴木)
このように評価項目は一つを除き大学の中身/質に関するものです。入学志願者学力(SAT/ACTや高校内申書)は全体の5%を占めるだけですから、入学志願者の偏差値ランキングではなく、大学の中身/質のランキングであり、一歩進んだランキング情報と言えるでしょう。
それでも、2022年11月24日付 College rankings are under fire. Is there a better way to rate the value of a degree? など、大学の中味/質の評価になっていないとの厳しい批判が寄せられているのです。U.S. News社は、How U. S. News Calculated the 2022-2023 Best College Rankings の冒頭で、「どの大学に志願するか、その判断は容易ではない。38年の歴史を持つUS News & World Report Best Colleges はその手助けとなる。最新版は過去最高数1500の4年生大学の学問上の質 (academic quality) につき、17の項目で評価しているからである。」 と述べています。この批判記事は、それに対し、「教育評論家は報道メディアなどの機関によるアメリカ国内大学ランキングの方法に疑問を呈している。こうしたリストが生徒と保護者の手助けにならず、高等教育機関の質の判断を不鮮明にしている。」と、US News& World Report Best College Rankingsを厳しく批判しています。
「多くの大学がUS Newsランキングでいかに上位にランクされたかを訴える」→「保護者がI VY-plus collegesのランキング・トップ校に子女を進学させたいと願う」→「所得格差やステータスを助長する」→「US Newsランキングがこの負のサイクルのエンジンとなっている」というのがボトムラインです。
US News & World Reportは、上表17個の評価項目を通し、各大学の教育の質を正確に調査・報告し、受験生が大学を選ぶ手助けとなることを意図していると反論しています。批判記事は、それら17項目が負の結果を生んでおり、手助けになっていないと指摘します。
例えば、名声(reputation 配点20%)や教授陣報酬(faculty compensation配点7%)は、教育能力を測定する物差しにならないと疑問視します。大学の学長らに他大学の教育の質を5段階で査定するよう依頼するとありますが、他大学の実情をどれほど知って査定しているか疑問です。しかも、回答回収率43%程度ではデータとしてやや弱いと言えるでしょう。大学教員の報酬と教育の質との相関関係がどれほどあるかも疑問です。ランキングにこだわる大学が教員報酬を上げれば、学費高騰につながり、低所得層や中間所得層の子女にはますます縁遠くなり、所得格差とステータスの助長になりかねません。
Graduation Retention Rates(卒業/2年次継続率 配点22%)は双刃の剣です。6年以内に卒業できる率/1年生の2年生への進級率は、アカデミック・アドバイシングなど教育サービスの充実や授業意欲や満足度の指標になる一方、「楽勝」授業(Micky- Mouse courses)を生む温床になり兼ねません。8年ほど前に訪れた大学で英文学科教授が「かつて少なかったAを今は乱発」と自嘲気味に語っていたのを思い出します。事実、ランキング・トップの大学の多くでgrade inflationが横行している様子が “Top15 Universities with the Highest Average GPAs” で見受けられます。この項目での評価を上げようとしての結果でしょうか。そうであるなら教育の質を下げるという逆効果を生んでいます。
大卒者と非大卒者間の賃金格差( “Wage Gap between College and High School Grads Just Hits a Highest Record” )、また、大卒者でもトップ20校卒かどうかによる賃金格差(“4 Reasons Why An Ivy League Education is Worth it”)がこうした背景にあります。それが、トップ20へ入りたい、入れたいという意識を強め、ランキングを権威づけしているとも指摘しています。[1]
低所得層子女の卒業率に注意を向け、Social Mobility(配点5%)の項目を設けて大学の所得格差是正への意欲を調査するようになったのは、そうした風潮を助長させないというメッセージでしょう。しかしながら、この項目ではIVY-Plus collegesの実績は最低で、むしろ、Regional Universitiesの方がダントツに秀でていると指摘しています。もっとも、この項目への配点はたったの5%、上位校ランキングへの影響はミニマムです。
Social Mobilityの対象学生は低所得層が多いと思われますが、中産所得層の子女も学費が賄えずローンを組まなければならない可能性が高まり、Graduate Indebtedness Average(各校連邦政府貸与額)に反映されます。授業料など学費が高い大学程その額は増えます。IVY-plus collegesはGraduate Giving Ratesも高く、多額の寄付金(endowments)を集めて多数の奨学金を提供しており、その分ローンを組む学生が少なくなります。また、この項目での評価をよく見せる為に、ローンを組む必要が無さそうな学生とローンを組む必要がありそうな学生とが選考過程で並んだ場合、前者が優遇される危惧がありそうです。
一方では、COVID-19の混乱と異常インフレーションで、受験生も保護者も、多額の借金をしてまで大学に行く価値があるかを考え直す傾向にあると記事は述べています。Forbesは2021年4月の段階で前年比入学者は662,000人減少したと述べており(2023年センター試験総受験者数551,000人に匹敵する大減少)、2022年には記録的なインフレーションが吹き荒れてこの先は更に減少するでしょう。第144回(2020年7月号)Post-Pandemic College Educationで学費高騰問題に触れましたが現実になりそうです。
こうした中、このランキングへ不正確な回答をしたということでColumbia Universityが今回では3位から18位に降格し、一部著名人が不正入学をして訴えられていることなどが起きています。とは言え、注1でも述べたように、こうしたランキングは残っていくだろうと記事は締めています。[2]
そんな中2022年、大学院ランキングに関して、著名なlaw schoolsがU S News Rankings(2022)がlegal educationの本来の使命(mission)を損ねているとし、US News Law School Rankings調査への協力、データの提供を拒否するという実行動に出たのです。“law schools complain US News”で検索した関連記事の中で、最新の2022年12月付け“Law Schools Revolt against US News Rankings Gain Steam”から要点を拾います。[3] アメリカlaw school進学を考えている読者必読です。
最初に声を上げたのはU S News Law School Rankings(2022)#1のYale Law Schoolで 、Harvard、 U C Berkeley、 Stanford、 Columbia、Duke、University of Pennsylvania、 University of Michigan、Northwestern、Georgetown、UCLA、 UC Davis、UC Irvineなどのlaw schoolsが続きました。American Bar Association(ABA)認可のlaw schoolsは205校の一部にすぎませんが、U S News Law School Rankings(2022)で上位にリストされている常連校です。これらが否定的行動に出たのですからインパクトは大です。
民主主義の旗頭を自認するアメリカにとって、自由と平等はその根幹であり、教育はその推進と向上を目指す重要な場です。その最高学府としての大学や大学院は全ての人に開かれた場でなければなりません。所得格差が、第148回で述べたアメリカの多くの大学がモットーとして掲げるLux(Light光)とVeritas (Truth真実)に影を落とすようなことがあってはなりません。平等を唱える合衆国憲法に基づく法を教え、学ぶlaw schoolsはその防人だからです。そうした視点からU.S. Newsのlaw schoolsランキング方法に対し懸念(concerns)の声を上げたものと考えます。
「U.S. Newsのlaw school rankings評価方法は不必要に極秘的で、本校が使命とする困窮度ベースの学生補助提供と公益法(public-interest law)推進に逆行する。」(University of Pennsylvania Law School)
「U.S. Newsのlaw school rankings評価方法は高騰するlaw schoolsの学費を緩和し公益司法キャリアを支援する試みに水を差す。」(William Treanor, Dean, Georgetown Law School)
「U.S. Newsのranking formulaは、経済的に潤沢でローン総額が少ない学生をリクルートするlaw schoolsにとっては有利であるが、潤沢でない学生をリクルートし、学術界(academia)や公共サービスの人材を育成するlaw schoolsにとっては不利である(相応に評価せず)。」(Russell Korobkin, Interim Dean, UCLA Law School)
「ソーシャル・モビリティではなく、富、排他性、投資収益度を助長するようなランキング・システムは“ジョーク”だ。」” (U.S. News Rankingsを念頭に、Miguel Cardona, U.S. Education Secretary)
いずれの声も、評価プロセスが欠陥データ(flawed data)と富(wealth)と名声(reputation)に報いる傾向にあり、法の本来の目的である公益(public-interest)を蔑ろにする結果を生み出していると批判しています。最たる欠陥データ(flawed data)が、College rankings are under fire. Is there a better way to rate the value of a degree?でも教育の質と無関係と痛烈に批判されている評価項目“the reputational survey”です。ボイコットに加わらなかったGeorge Mason University Law School のDean Ken Randall氏の例えが言い得て妙です。「オリンピック競技のダイビングで、ダイバーがプールから這い出るや審判席に座り自分のパーフォーマンスに10を付けた後、他の選手を(辛く)評価をするようなものだ。」
同様の声は以前から上がっていましたが、これらのlaw schoolsが実行動に出た社会的背景に、2021年1月6日のアメリカ合衆国議会議事堂乱入事件(January 6th United States Capitol Attack)があると思われます。民主主義を揺るがすショッキングな出来事です。年が明け、2022年2月24日にはロシアのウクライナ侵略(Russian Invasion of Ukraine)が勃発しました。ソビエト連邦崩壊後のロシアの政治体制は、少数のオルガルヒ(billionaire orgarchs)による寡頭体制(oligarchy)が横行した結果です。それはロシアだけではなく、Oligarchs in America: How do the rich impact our politics? | USA TODAYhttps://www.youtube.com/watch?v=LyOgmYnRfYk などのサイトが指摘するように、アメリカも例外ではないという危機感です。[4]
PlatoはThe Republicでoligarchyについて触れています。時代背景は違いますが、Oligarchy and Democracy in Plato’s Republic と称する記事は、The Republic のBookⅧとBookⅨを引用し、現在起きていることと比較し、本質的に似ていると述べています。
Platoの師Socrates[5]は完璧な体制(perfect state)が終焉した後の政治体制(imperfect state)を探求した。スパルタ的名誉(honor)と富(wealth)の原理の下で、支配者は民衆の利益をよそに専ら戦争に取り憑かれ、金権的政治体制(timarchic regime/timocracy)に変わり、やがて、少数の富を蓄積した者が支配(rule by the few)する寡頭政治(oligarchy)に陥る。初期段階では善(good)や名誉(honor)を追求する支配者たちも、やがて、贅沢を好み、法を悪用し、無視するようになる。民衆は自己拡大(self-aggrandizement)に熱中し、善人の美徳は侮蔑される。[6] 長い目で見た幸福ではなく現下の物欲に駆られ、理性(reason)や精神(spirit)は無用になる。要職の資格は専門性や社会的協調性から富に変わる。船長の資格が航海術から富に変わるようなものである(Socrates)。民衆は無視され政治から除外され、社会不正が横行し、富める者と貧しい者との亀裂が生じる。貧しき者は市民権があっても社会的役割を奪われ極貧の路上生活を強いられる(Plato)。[7]
アメリカの民主主義が終焉し、Socratesの言う金権政治、寡頭政治、独裁政治に堕落する可能性に警鐘を鳴らす記事が“oligarchy , America”で検索すると出てきます。これらのlaw schoolsの関係者にとって無視できない声でしょう。高騰する学費が法を教え学ぶ最高学府の高い壁になっている現実があるからです。万民の平等を謳う民主主義憲法の原則に反します。これらランキングがそうした風潮を助長し兼ねないという危機感を持ち今回の行動にでたものと思われます。
U.S. Newsもそうした声に応えて2023年1月3日に声明を発表し、2023年版を出しています。
第144回で述べましたが、大学側も高騰する学費、増えるstudents loan debt問題の解決策を示す責任があります。日本も他の国々の大学も程度に差こそあれ同じ問題を抱えています。どの程度問題意識があるかは疑問です。アメリカの大学は問題意識を持ち対応に取り掛かろうとしています。その分一歩先を進んでいます。
将来存続できる大学はユビキタスに安価で学生の知的好奇心に応える教育システムを提供する大学でしょう。宇宙ロケットは打ち上げ目標の現在の位置ではなく、そこに到達する将来の位置を予測し打ち上げます。大学ランキングも各大学が将来の社会をどのように見据えてカリキュラムに反映させているか調査すべきです。それでもランキング情報は参考資料でfinal answerではありません。社会は変革するので予測は至難で、学生の将来は各自多様で、bestの選択は自らが決めることで第三者が決めことではないからです。アメリカ留学を考えている若い読者にはcritical thinkingの力を発揮しこうした観点で自分に最も相応しい選択をするよう望みます。
2023年1月19日記
[1] よって、US. News Best College Rankingsはなくならいと断言しています。
[2] Despite Years of Criticism, the U.S. News College Rankings Live Onも読んでみてください。
[3] “Intense Criticism from Law Deans”(有料)ほかもあります。
[4] “Oligarchy in America”で検索してください。
[5] Socratesは著書を残さず、弟子Platoらの著書の引用のみです。
[6] The Republic BookⅧではaristocracy(最良の貴族主義)→oligarchy(悪に満ちた寡頭政治)→democracy(oligarchyと異質の民主政治)→tyranny(最悪の混乱を伴う専制政治)の順に4つの政治形態を並べています。aristocracyをgovernment of the bestとするなど当時の背景を反映しています。Book Ⅸも一緒に読んでみてください。
[7] ドローン(drones/雄蜂)にも触れています。“Democracy, Tyranny and Plato’s Republic”も読んでください。
慶應義塾大学名誉教授
Yuji Suzuki, Ph.D.
Professor Emeritus, Keio University
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。
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