前回、第148回の続きです。後段に述べたinquiry、即ち、researchの方法論についてです。筆者が見るアメリカの大学の強みの一つは、research方法論の実践訓練を通して徹底的に身につけさせるということです。大学1年生、2年生のcore curriculumのコースで基礎的な知識と訓練を、そして、3年生、4年生の専攻コースでそれぞれの専攻に特化したresearch方法論の知識と訓練を、大学院では、特に博士課程で更に専門的な方法論と訓練を受け、博士論文(Ph.D. Dissertation)はその集大成と位置づけられます。(*1)どの大学でも一貫しています。第105回で述べた通りです。筆者は、日本の大学、大学院ではさしたる手ほどきを受けたこともなく、レポート、学士論文、修士論文を書きました。思えば、大学受験で小論文が課され、(*2)受験雑誌にあった起承転結の手引きを読み、書く練習をしたような気がします。入学後は授業で使った英語の参考文献を読み、見様見真似で授業レポートを書き、学士論文、そして、修士論文を書きました。確たるresearch方法は無く、内容は深まらず、むりくり起承転結しても「牛刀をもって鶏を割く」ということになります。(*3)
留学前の筆者は、英語論文(academic papers)はその延長ぐらいに軽く考え、1、2年滞在して英語が上達すればマスターできるだろうと高を括っていました。大間違いでした。アメリカ留学初っ端でresearchのノウハウが欠けていることを思い知らされたのです。それ無くして最終目標のPh. D. Dissertation(博士論文)を書くことなどあり得ないとすぐに分かりました。当初は1年、長くて、2年アメリカで勉強したら帰国して日本の大学院の博士課程に進もうと考えていましたが、急遽予定を変更し、そのまま留まることにしました。英語ネイティブに劣らぬacademic writing、presentation、discussionの力をつけること、そして、research能力をつけること、さしあたり、これが筆者の目標になったことは言うまでもありません。その詳細については、本コラムのMemorable Teachersシリーズ過去7回(*4)、第133回、第136回、第138回、第139回、第141回、第145回、第147回を参照してください。(*5)
それから10年後に英語学(English linguistics)でPh.D.論文を書き、目標を達成するや帰国し、慶應義塾大学経済学部、同湘南藤沢キャンパス(SFC)環境情報学部・大学院政策メディア研究科(*6)、合計36年間教鞭を執る事になりました。その教歴を通して筆者が拘ったのは、英語research能力(skills)の育成であったことは言うまでもありません。TOEFL®テスト(現在のTOEF iBT®テスト)、(*7)そして、SAT®、GRE®、GMATTM、LSAT、MCAT®などのアメリカの諸テストのVerbal Sectionは、critical thinking、research能力の有無を評価するものです。1978年、日本に帰国し最初に赴任した母校慶應義塾大学経済学部ではこれらのテストを推奨し、10年間の在籍中、相当数の学生にアドバイスし推薦状を書いてアメリカの大学院に送りました。Research能力を磨いてもらいたかったからです。
その後1990年創設のSFCや2008年創設のBKC上記新学部にてProject-base English Program(PEP)と称する英語プログラムを立ち上げ、professional skillsと称して、プロジェクトを通してresearchを行い、中には日常会話もままならぬ学生を、(*8)2年間でacademic research、academic oral & written presentationができるよう指導しました。関心ある読者は、『プロジェクト発信型英語Do Your Own Project in English Volume 1』(南雲堂)、『プロジェクト発信型英語Do Your Own Project in English Volume 2』(南雲堂)そして、『Readings in Science』(南雲堂)(*9)参照して下さい。最後の本では専門分野のresearchを行いacademic papersを書き、さらにポスタープレゼンができるようになっています。TOEFL iBTテスト、SAT、GREなどの準備に、また、アメリカの大学の授業を想定し、執筆しました。筆者の在任中は、毎年約800名が、ほぼ全員が落伍せず合格し、立命館では大学が課していたTOEIC®テストで相当の効果が出ました。(*10)
Researchの方法論については、科学方法論(methodology of science)という分野が詳しく扱っています。第98回で述べたpragmatismもその一つですが、(*11)古くはソクラテス(Socrates)、プラトン(Plato)、アリストテレス(Aristotle)などの古代ギリシャ哲学にまで遡ります。近世に入りDescartes, Locke, Humeを経て現代の思想家らが、科学(science)とは何か、それに基づく方法論を巡って侃侃諤諤の議論を繰り返してきたわけです。(*12)Stanford Encyclopedia of Philosophyの“Scientific Method”と称する無料サイトの記事が分かりやすく簡潔に解説しています。
“The Scientific Methods: Crash History Course of Science#14”などのYouTubeのサイトなどはDescartesらの科学方法論を分かり易い英語で説明してくれます。他にも“scientific method”で検索すればたくさんあります。アメリカ留学を考えている読者に役立つ情報です。最近では、Descartesの方法論に真っ向から反論するDaniel C. Dennettの“Darwin’s Strange Inversion of Reasoning”など、興味深い視点も出てきました。(*13)
このように科学方法論、すなわち、research approachは重要な課題であり、アメリカの大学、大学院への留学を考えている読者は、basicな知識として、inductive reasoning(帰納法)、deductive reasoning(演繹法)、abductive reasoning(仮説的推論)の3つをしっかり押さえておく必要があります。インターネットで無料アクセスできるサイトから幾つか選んでみました。Merriam-Webster“Deduction vs Induction vs Abduction”(以下略称MW)は、これら3種類のreasoningを分かり易く簡潔に説明しています。少々専門的になりますが、“Three Basic Types of Reasoning” (以下略称BOT)は、3種類以外にもう2種類のreasoningを取り上げ、比較しており、一読に値します。(*14)これらの3種類のreasoningの内、最も重要なのは、inductive reasoningとdeductive reasoningの2つです。そこで、Inductive vs. Deductive reasoning(以下略称Scribbr)、および、The Difference between Inductive and Deductive reasoning(以下略称DM)の2つを選んでみました。これら4つのサイトは、日常のコンテクスト、そしてアカデミック・コンテキストからも例を挙げて分かりやすく解説しています。重複する部分がありますが、それぞれ強調するポイントが微妙に異なり、補完し合い、全体像を見るのに適していると思い選びました。他にも良いサイトが多数あります。(*15)以下、それぞれの強調ポイントを中心にreasoningごとに分けて要約します。TOEFL iBTテストの準備をしている読者は、原文で読んでください。TOEFL iBTテストでは中級中レベルから中級上レベルのreadingsです。コメント欄があったら書いてみましょう。
1. Deductive Reasoning(演繹的推論) = Deduction(演繹法)とは?
[MW] 普く受け入れられている事実、理論を前提(premises)に推論(inference)する。前提が真であれば、結論は真であり、前提が虚偽であれば、結論は虚偽である。日常生活の例:(1)飲料をストローで飲めるものとするなら、スープは飲料である。(*16)(2)10時に歯医者のアポイントがあり、家から歯科医まで車で30分掛かるとする。これら2つの事実から、アポイントに間に合うようにするには、遅くとも9:30には家を出なければならない。(3)サンドイッチをスライスされた2枚以上のパン切れか、または、真ん中に切れ込みを入れたロールに中身を挟んだものとする。また、ホットドッグを真ん中に切れ込みを入れたロールに(熱せられた)フランクフルト・ソーセージを挟んだものとする。切れ込みを入れたロールに出されたホットドッグは、よって、サンドイッチである。
[BOT] 絶対に真であると言えるものを求める。ある理論が絶対に真であると証明する。論証・証明(prove)→答え(answer)の順に進める。シャーロック・ホームズの手がかり(clue)はその一例である。
[Scribbr] 既存の理論(an existing theory)を実証(test)する。4つのStagesから成る。Stage 1. 既存理論(例「格安flightsは遅れる。」)→ Stage 2. その理論を基に仮説を立てる(例「乗客が格安flightsで旅行すると、遅延に見舞われるだろう。」)→ Stage 3. 仮説を実証するためにデータを集める(例「格安flightsのデータを集める。」) → Stage 4.データを分析し、データが仮説を支持するかしないかを判断する(例「100格安flightsの内5flightsに遅延がなかった。」→ 仮説を却下、他方、「全100格安flightsで遅延があった。」→ 仮説確証)Deductive reasoningで結果を真とするには、全ての前提条件(premises)が真であること、使用する用語が正確に定義づけられていることが求められる。ここでいう既存理論はinductive reasoningの結果として得られるものである。(*17)
[DM] 理論(theory/hypothesis/idea)に始まり、実験・検証(experiment)し、確証(conclusion/confirmation/validation)する。理論(例 “All men are mortal.”) → 観察(例: “Jason is man.”)→ 確証。(例 “Jason is mortal.”)結果予測を可能にする既存の理論・考え・仮説を、実験を通して実証する。前提・根拠が真であれば、結果は必然的に真である。完璧な結論を導くが、前提・根拠が100%正確でなければならない。よって、実験室での実験(観察)を伴う科学(lab/science)以外の応用は難しい。日常生活で使いたいところであるが、一連の事実(a sequential sets of facts)を揃え、論(arguments)ずるのは至難である。Deductive reasoningは正確(precise)かつ量的(quantitative)である。(*18)
2. Inductive Reasoning(機能的推論) = Induction(帰納法)とは?
[MW] 観察(observation)に基づき推論する。確率、可能性の要素(an element of probability)を取り入れた推論方法である。論理学では、複数の固有例から一般的な結論を推論することを言う。端的に言えば、観たり、知ったりするものから一般化できるものを推測することである。日常生活では、限られた事象を観察し、そこから可能性を探る推論、即ち、inductionが繰り返される。昼食時に、数名の同僚があるサンドイッチをオーダーするのを目撃したとする。そこから、そのサンドイッチは旨いに違いないと推測し、試してみる、などがその例である。
[BOT] 観察して最も本当と思えるものを見つけて証明する。例:数学的帰納法。観察(observe)→ 答え(answer)→ 証明(prove)の順。(*19)
[Scribbr] 理論を立てる(develop a theory)。あるテーマに関して理論が存在しない、または、希少で実証すべき理論が無いか、あっても乏しい場合に採る推論方法である。3つのStagesから成る。Stage 1. 観察(例「ある特定の格安flightが遅れる。」) → Stage 2. パターンを観る(例「20回の格安flightsが遅れる。」) → Stage 3. 理論を立てる(例「格安flightは遅れる。」)Inductive reasoningによる結論は、可能性であって、絶対に正しいと保証できるものではない。結論の信頼度はデータの量に比例する。データが少なければ信頼度が低下し、その分効力も低下する。
[DM] 観察(observation)に始まり、一般化(generalization)し、理論(hypothesis / theory / idea)を導く。個々のケースの観察を通して一般論を導く。手順は、観察(例“I break out when eat peanuts.”)→ 分析(analysis)→ パターン(例 “There is a symptom of being allergic.”) → 仮説・理論(例 “I am allergic to peanuts.”)である。Inductionの結論は、正しいかもしれないという可能性に過ぎない。根拠とする証拠(evidence)の良し悪しに依拠する。断片的な知識、確率性、実用性(usefulness)に依拠するところが多い。日常生活では物事が曖昧で、それらについての断片的な知識しか持ち得ず、問題解決にはinductive reasoningに依存せざるを得ない。Inductive reasoningは大まかで(general)、かつ、質的(qualitative)である。
3. Abductive Reasoning(仮説的推論) = Abduction(仮説推論)とは?
[MW] 既知の知識・情報から結論を導く事である。結論は可能性に過ぎない、メジャーな前提が明白であっても、マイナーな前提は可能性に過ぎないからである。この種の推理は日常生活のあちこちで見られる。例えば、食べかけのサンドイッチがカウンターにある(メジャーな前提)、そこから10代の息子が、サンドイッチを作り、それを食べかけたところで、バイトに間に合わないと知り(マイナー前提)、カウンターに食べかけを残したまま後片付けもせずに出て行ったのではと推論する(結論)。明白な事実は半分食べかけのサンドイッチがあったということだけで、後は、同居する息子に関する知識を前提に推理しており、結論は全くの可能性である。(*20)探偵が犯行現場での証拠を結び合わせて犯人を絞り出す場合、食卓の皿のスープはまだ温かい(メジャーな前提)、恐らく、飲んでいた者はすぐに戻ってくるに違いない、などもその一例である。
[BOT] 信頼できるデータやエビデンスを観て、説明できる仮説を立て、推論する。(*21)
4. Reductive(還元的推論)とは?
[BOT] 当該の言説を否定し、その結果が誤っているか、馬鹿げているか、そのいずれかになってしまうことを示すことにより言説が真であることを証明する。(*22)Inductive reasoningとreductive reasoningに適応可能で、混合とも言われる。
5. Fallacious Reasoning(誤謬的推論)とは?
[BOT] 独断で勝手に真と思い込むこと。間違った認識(misconception)、間違った根拠(false premises)、独りよがりの結論(presumptuous conclusion)など、議論・推論上の誤りである。要は、真のreasoningでは無いと言うことである。(*23)
(MW, BOT, Scribbr, DMの4つのサイトより- 編集、要約、少々加筆、翻訳、鈴木佑治)
以上、5種類のreasoningを取り上げましたが、全5種類を取り上げているのはBOTのみで、それぞれのreasoningが追求する結論の違いを次のように纏めています。
Inductive reasoning → What is observably most true? 何が観察上最も真か?
Abductive reasoning →What is most likely true? 何が最も真らしいか?
Reductive reasoning→ What is not true? 何が真ではないか?
Fallacious reasoning → “What you think is true? 何が自分が思う真か?
(BOTより)
MWは、induction、deduction、abductionの3つの語源を説明しています。Latin語からの借入語で、それぞれの違いがよく分かります。
Induction: in-(“to”) + ducere(“lead”) = “lead to” = “leads you to a generalization”
Abduction: ab(“away”)+ ducere(“lead”) = “lead away” = “take away the best explanation”
(BOTより)
BOT以外は取り上げていませんが、reductive reasoningとfallacious reasoningについて一言。先ず、reductive reasoning(還元的推論)は、ある理論を否定したもの、即ち、その逆説が、偽り、または、奇妙な言説となれば、その理論は真であると証明することです。特殊なreasoningに見えますが、日常よく行うreasoningではないでしょうか。正反対の意見が対立した時、反対の立場に立ち考え直してみるというのもその一例です。BOTは、reductive reasoningは、deductive reasoningとinductive reasoningに類似しており、それらを混ぜたreasoningと述べています。要は、これら2つのreasoningで導かれる結論を否定し、その真偽、有効性を再確認する(reconfirm)プロセスに過ぎないということでしょう。そうすると別項を立てるまでもないかもしれません。(*24)しかし、様々な文化が交差するグローバル社会にあって、自分の文化では正しいと思えることが、他の文化から見るとそうではないことが多々あります。異文化間の紛争には欠かせない重要なreasoningになることは確かです。
絶対に避けなければならないのは、fallacious reasoning(誤謬的推論)です。独りよがりの思いつき、個人の勘、誤認識を根拠にするわけですから必然的に誤った結論しか出てきません。意図的に行うとconspiracy theory(陰謀説)となり、残念ながら古今東西日常生活に蔓延しています。瞬時に多量の情報が交わされる現在の情報化社会においては、情報の真偽を見極める為に、deductive、inductive、abductive reasoning、時には、reductive reasoningも駆使して、的確な判断と的確な言動ができるようにすることが重要です。
このように、deductive reasoning、inductive reasoning、abductive reasoningの 3つが一般的なreasoningとして集約されそうです。いずれのサイトも、これらのreasoningは、フォーマルな状況に限らず、日常生活で直面する問題解決においても頻繁に使われていることを強調しています。MWは、「アポイントメントに間に合うには家を何時に出たら良いか?ランチには何が一番良いか?キッチン・カウンターに半分食べかけのサンドイッチがある、どうして?」と、日常生活におけるこの種の問題発見・解決にdeduction、induction、abductionの3つのreasoningは欠かせないことを強調しています。わけても、ScribbrとDMを含め、その他多くの関連記事が焦点を当てているdeductionとinductionの2つのreasoningが最重要であることは確かです。
これら2つのreasoningにつき、もう一言。DMは、「両者一対で連続的に使用される。即ち、inductionでtheoryを求め、deductionでそのtheoryの真偽を決める」と指摘しています。BOTの文言を借りれば、inductionから得られる結論は、「観察上最も真(observably most true)」であり、「絶対に真(absolutely true)」を目指すdeductionとは質的に違います。DM自体の文言を借りれば、deductionでは完璧で揺るぎの無い一連の事実(a sequential sets of facts)を揃えて論(arguments)を組み立てる必要があること。よって、実験室実験を伴う科学(lab / science)以外での応用は難しいこと。正確(precise)でより量的(quantitative)reasoningであること。一方、inductionでは不完全な知識しかなく、絶対正しいとは言えない物事に囲まれた日常生活において最善の問題解決を示す道具として欠かせないこと。大まかで(general)で質的な(qualitative)reasoningであること、等々、これらの根本的な相違点に鑑みるに、inductive reasoningで得られる理論をdeductive reasoningで実証するという言及は、分かりやすいですが、もう少々説明を要するものと考えます。
そうした疑問はさておき、柔軟に考えれば、inductive reasoningで理論を、deductive reasoningでその理論を実証する、という構図は人文科学や社会科学では十分考えられます。筆者がGeorgetown University言語学博士課程で訓練されたのはこれに近い方法論でした。言語データを収集しそれを観察し理論・仮説を立て実証するという流れです。筆者自身の英語法助動詞に関する博士論文、を例にすると、The Brown Corpusから全英語法助動詞を含む英文を取り出し、法助動詞ごとに意味解釈を行いながら観察し、仮説を立てて実証することにしました。データ収集(collecting data)→ 観察 / 分析(observation・analysis)→ 立論(theorization)→ 検証(verification)という手順です。論文執筆のproposalにはresearch methodの詳細を明記した概要(abstract)を提出します。それが受容されると、主査1名、副査2名から成る審査委員会(Ph.D. Committee)が形成され、論文指導、執筆後の論文審査、口頭試問(oral defense)を受けることになりますが、それぞれの段階でresearch methodについてもかなり厳しく諮問され、必死になってdefenseしたのを思い出します。 (*25)
アメリカの大学・大学院の2021―2022 Academic Yearは、依然COVID-19 Pandemicの影響の中の幕開けとなると思われます。恐らく、in-personとonlineを混ぜた学習blended learningなどが中心に進められる可能性がありますが、かなりの部分でonline化が進むのは必至でしょう。実際、多くの分野の学術雑誌はonline化されており、現下のCOVID-19 Pandemicの影響から、例えば、医学学術会議などは、Eventbrite見ると、その多くがonlineで進められるなど、この傾向は加速すると思われます。すなわち、学術論文・記事・発表・討論はonline上で繰り広げられことになるのでしょう。若い読者は、10年後、20年後はそうした世界で活躍することになります。当然research方法論、reasoningも変わるでしょう。COVID-19禍で苦境と戦いながらも、各大学・大学院は、そうした将来の変化も見据えて変革・邁進するものと期待します。
最後に、ここ数年多発したconspiracy theoriesに目を向けると、上述したようにfallacious reasoningに起因するところが多く、research mind、critical thinkingの必要性が浮き彫りになりました。最高学府としての高等教育機関は、その最前線に立ち、research mind、critical thinkingの実践訓練の場を提供する使命を負っています。ただ、そこに高額の授業料という壁が立ちはだかっています。国内外の多くの有望な学生が夢を諦めることがないよう切に祈ります。(*26)COVID-19禍に置ける一条の真理(veritus)の光(lux)として、その創造力をもってすれば必ず解決できると信じています。光(lux)のエネルギーの源は創造力です。その創造活動に多くの若者が参加し貢献できるよう願います。
(2021年1月12日記)
(*1)第59回で述べたように、アメリカで書かれた全てのPh.D. dissertationsは、University Microfilms International(現ProQuest)に保存され有料で入手できます。筆者の博士論文は、当機関番号7901787で登録されています。また、Ph.D. dissertationはA Generative Semantic Analysis of the English Modals(Nathanael Yuji Suzuki) でも見れます。
(*2)筆者は1962年2月に慶應義塾大学文学部を受験しました。2次試験に小論文がありました。当時、受験科目に小論文を課していたのは慶應文学部だけかもしれません。筆者は慶應の他学部や他大学を受験したことがないので分かりません。
(*3)学部卒業論文では「英文に伸びがない」とのコメント一言のみ、真意が分からず戸惑いましたが、この事を言われたのなら納得です。修士論文も博士論文も提出後何のフィードバックも無く、卒業間際の面談でコメントを受けただけでした。それに対し、筆者が世話になったアメリカの大学、大学院では論文は言うに及ばず、papersや試験の答案全てがコメント付きで返却されました。アポイントメントを取れば懇切丁寧に更に詳しく教えてくれました。
(*4)筆者の本コラムFor Lifelong Englishの記事のバックナンバーにあります。キーワード“lifelong English”でも検索できます。
(*5)Memorable Teachersシリーズは好評で、“memorable teachers”で検索しても見られるようになりました。本シリーズは後3回ほどを予定し、Ph.D.論文の執筆中の奮闘記にも触れる積りです。
(*6)慶應SFC創設目標の一つが、新たな科学方法論の模索でした。筆者もそれに賛同し設立メンバーに加わりました。それを目指して教職員学生が一丸となり喧々諤々の議論を交わした創立当初の数年間が懐かしく思い出されます。
(*7)第120回で述べたように、TOEFL iBTテストは、留学生がアメリカの大学・大学院でこれら2つのreasoningを駆使しcritical thinkingができるかどうかをチェックします。英文を丸暗記したり、ひたすら視聴したりするだけで、inductiveやreductive reasoningを伴う発信活動をしなければこの力は付きません。
(*8)できないと思い込んでいただけで、日常会話なら授業開始からしばらくすれば出来るようになります。
(*9)前身は『Do Your Own Project in Englishプロジェクト発信型英語Volume 1 & Volume 2』(絶版 郁文堂)です。本書Volume 1は日常生活の関心事をテーマに、Volume 2では日常生活の関心事を更にresearchして掘り下げ、学術的テーマに高め、academic papersを書いてpresentation、discussionをします。Readings in Scienceでは専攻テーマでresearchを行い、その結果をpapersにまとめposter presentationをします。授業でも、小グループでも、2、3名でもできます。また、SFC赴任時代にはアメリカやイギリスの大学とテレビ会議でジョイント授業をしました。In-personでもonlineでも対応できます。Readings in Science は、TOEFLテスト、SAT、GREテストなどの準備に役立ちます。ここで改めてお願いがあります。これらの教科書の執筆時には、大学の事情で当初計画したonline出版を諦め、紙で出版せざるを得ませんでした。出版社は筆者の趣旨に賛同し、多大な費用を掛けて出版にこぎつけてくれました。特に、Readings in ScienceはNature Newsの記事10本を使用し、高額な使用料金を払い許可をいただいております。筆者自身も、記事の選択、注・設問執筆に相当の時間をかけました。日本経済も知的所有権に負うところが多大で、それを守る為にもコピーなどcomplianceにもとる無断使用など無きようお願い、訴えております。
(*10)『グローバル社会に生きるための英語授業』にて、筆者在任中の2008年-2014年の6年間における生命科学部・薬学部のPEP Program全受講者のprojectsとTOEICテストの成果、および、授業評価について報告しました。本書は非売品です。尚、筆者退職年2014年以降の状況、成果については定かではありません。
(*11)The Rule of Reason, The Philosophy of Charles Sanders Perce(J. Brunning & P. Forster, Ed.)と称するC. S. Peirceのreasoningに関する論文集があります。方法論に相当こだわっています。
(*12)Humanities(人文科学)、social science(社会科学)、hard science全てscience(科学)です。筆者の専攻分野の言語学(linguistics)は、social scienceに入ります。言語学に於いても色々な方法論による言語分析が行われます。Noam ChomskyらはDescartes客観主義に基づく方法論で、George Lakoffらはそれに反する相対論的な方法論で言語分析を展開しています。Roman JakobsonやJ. L Austinらの著作は、言語分析を通して科学方法論そのものを考察しているように思えてなりません。これら言語学者の影響は、humanities, social science、hard scienceなどの境界を超え、個別型から融合的科学方法論への関心を高めそうです。
(*13)英語発信力を身に付けたければ、自分で情報を受信・発信する場を作って活動する事です。英語以外の情報もネット上の翻訳ツールで簡単に英訳できます。TOEFL iBTテストで高得点を上げるには、英語を外国語教科(English as a foreign language)ではなく、生活に必要な第二言語(English as a second language)として運用する場の創生が急務です。インターネットを使えば個人、グループでも活動できます。筆者が高価な書籍ではなく、ネット上のサイトを紹介するのは、それがほぼ無料、あるいは、安価で実現可能である事を示唆するためです。第79回も参照してください。但し、注7でも述べたとおり、YouTubeなどを視聴するだけで終わらず、発信する場を作りましょう。
(*14)注1参照、pragmatismの提唱者Peirceの著作を編集したThe Rule of Reason: The Philosophy of Charles Sanders Peirceからの要約です。
(*15)余白の関係でここでは取り上げませんが、“Deductive vs. Inductive Reasoning: Make Smarter Arguments, Better Decisions and Stronger Conclusions” は、更に詳しく分かり易く解説しています。
(*16)現実に、熱いスープをストローで飲むかは疑問です。理論上OKでも実際にどうか疑わしい例は沢山あります。言語分析でも、理論上OKでも現実には疑問という例は沢山あります。Chomskyの”Colorless ideas sleep furiously.”は、文法理論上OKですが、意味論上“ideaと“colorless”や“sleep”はそぐわず、隠喩で無い限り、言うかどうか疑問です。
(*17) ここでは「格安flightsは遅れる」ですが、Scribbrのinductive reasoningの例の結論と同じです。
(*18)“Quantitative”と“qualitative”の違いについては、余白の関係でここでは割愛します。“Quantitative vs. qualitative data, What’s the difference?” などのサイトを参照してください。アメリカ留学で必要な知識です。
(*19)関心ある読者は、“mathematical induction”または”proof by induction”で検索してみてください。
(*20)不法侵入者の仕業かもしれません。そうだとしたら、10代の息子は濡れ衣を着せられることになります。身内ではなく他人であったなら大変です。冤罪(fraud)に繋がりかねません。
(*21)“The American philosopher Charles Sanders Peirce first introduced the term as “guessing”.”が付け加えられており、ここでの“hypothesis”は、Peirceの言う“guessing”(推察)という意味のようです。
(*22)このreasoningに関連し、関心ある読者は、“Karl Popper Theory of Falsification” も読んでみてはいかがでしょう。勿論、falsificationはfallacious reasoningではないので混同しないように。
(*23)巷間耳にするconspiracy theoriesはfallacious reasoningの最たるものです。また、reductive reasoningやinductive reasoningであってもconspiracy theoriesに陥る可能性があります。例えば、evidenceが改竄されたり、曲解されたり、都合のいいものだけであったり、はたまた、DMが指摘するように、inductive reasoning(単なる可能性としての結論を求める)で、deductive reasoning(絶対的真理の結論を求める)かのように議論を進めてしまうなど、情報化社会ではあちこちにその危険性が潜んでいます。
(*24)注20で触れたKarl Popperらにとっては、最重要で中心的なreasoningです。
(*25)口頭試問では、審査委員会メンバー以外に専門分野(筆者の場合英語学)の何名かの教授が加わり、次から次へと厳しい質問を受け、答えました。留学生活の最後を飾る思い出深い一幕でした。細部に至るまで手を抜かぬあの厳しさに敬意を評し感謝しています。
(*26)“Average Income around the World” によると、GNP世界3位の日本でさえ平均所得は$41,700です。アメリカ留学に掛かる総費用はその倍近くでいつしか高い壁ができてしまいました。日本からの留学生が激減しているようですが、それも頷けます。
慶應義塾大学名誉教授
Yuji Suzuki, Ph.D.
Professor Emeritus, Keio University
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。
英語圏に限らず、世界の大学・大学院、その他機関で活用されています。また日本国内でも大学/大学院入試、単位認定、教員・公務員試験、国際機関の採用、自己研鑽、レベルチェック、生涯学習など活用の場は広がっています。
自宅受験TOEFL® Essentials™テスト
2021年から自宅受験型の新しいテストとしてリリースされました。約90分の試験時間、短い即答式タスクが特徴のアダプティブ方式の導入されています。公式スコアとして留学や就活などにご利用いただけます。
TOEFL ITP®テストプログラムは、学校・企業等でご実施いただける団体向けTOEFL®テストプログラムです。団体の都合に合わせて試験日、会場の設定を行うことができます。全国500以上の団体、約22万人以上の方々にご利用いただいています。
Criterion®(クライテリオン)を授業に導入することで、課題管理、採点、フィードバック、ピア学習を効率的に行うことを可能にします。