第156回 TOEFL®テストとTOEIC®テストの違い:社会言語学スタイル論から

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前回第155回に関連し、今回はETSのTOEFL iBT®テストとTOEIC®テストの違いについて述べます。 TOEFL iBT® test “measures a test taker’s ability…in a classroom… to succeed in an English-speaking academic environment.”英語圏の大学などの授業で要するアカデミック英語能力を測定します。TOEIC® Tests “assess your speaking and writing skills in the workplace.”様々な仕事の場(workplace)で必要な英語力を測定します。

TOEFL iBT®テストは英語圏のみならず非英語圏[1]も含め英語を教育媒体語とする大学や大学院の出願時に提出を求められます。TOEIC® テストも英語圏のみならず非英語圏でも英語を使用する“workplace”で採用されています。多くの国々において、英語はもはや外国語ではなく日常生活に欠かせない第2言語化しつつあることを物語っています。[2]

日常生活で欠かせないインターネットでその現象が進行しています。TOEIC®テストが対象とする世界中のworkplaceはインターネットで繋がり、そこでの英語は多様です。一方、第155回で述べたように、TOEFL iBT®テストが対象とする英語は同じくインターネットが繋げるアカデミアの英語です。今回は、社会言語学のスタイル論から2つのテストの違いを述べます。

本コラムで何度か紹介しましたが、現在世界には約7000の言語languages)があります。それぞれの言語には複数の方言(dialects)があり、それぞれの方言には複数のスタイル(styles)があります。言語、方言、スタイルはそれぞれ個有の言語学的構造を持ち、総称して言語変種(linguistic variety/varieties)と言います。

アメリカ英語の場合には、A Map of American English によると約20の地域方言(regional dialects)があります。加えて、都市部のアフリカ系アメリカ人の間で話されるAfrican American (Vernacular) English(AAVE)のような社会方言(social dialects)があります。標準語(standard language)とは標準化(standardized)された方言のことで、アメリカ英語の場合、東部、上中西部、太平洋西南部あたりの英語を指します。

スタイルはコミュニケーションの状況に依拠します。言語学者Martin Joosは、frozen、formal、consultative、casual、intimateの5つを挙げています。[3] 本稿では consultativeをinformalに変え、frozen、formal、informal、casual、intimateの5つのスタイルとします。家族とか極親しい人との親密な場ではintimateスタイル、友達同士のカジュアルな場ではcasualスタイル、非公式の場ではinformalスタイル、公式な場ではformalスタイル、超公式(儀式)な場ではfrozenスタイルとなります。アカデミック英語とはformal(授業討論)からfrozen(論文発表)スタイルの英語と言って良いでしょう。一般的にどの言語でも標準語は5つのスタイルを持ち、方言は親密、カジュアル、インフォーマルなスタイルが中心です。フォーマルな状況では標準語に切り替えます。社会言語学ではスタイル・シフト(style-sifting)と言います。[4]

外国語学習は標準語を学ぶことになりますが、TOEFL iBT®テストは、アカデミック英語スキルを測定するので、formalと frozenスタイルの4技能テストになるでしょう。他方、TOEIC®テストはworkplaceで使用される英語能力を測定するので、intimate(親密)からcasual、informal、formalスタイルの4技能、特に、speakingとwritingにおいては、formal英語の基準を少々逸脱しても通じるか(communicative)否かの判断基準が適用される可能性があります。英語を使う世界のworkplaceは各種仕事場からオフィスまで広範囲です。概して、casual、informalスタイルが中心で、例外的にformalスタイルの英語ということになるでしょう。相手が同僚か、顧客か、また、業務連絡か会議か、transactionsの内容で変わります。

筆者はアジア、アメリカ、ヨーロッパ様々な場所に行きましたが、どこでもそれぞれの母語が混じるピジン(pidgin)英語の花盛りです。カジュアルや親密スタイルの英語が飛び交っています。メキシコで値段交渉していた時、男性店員から“Amigo, you buy now. No mucho talking for a dollar!”と言われ、交渉を止めて買うことにしました。これもworkplace Englishです。もちろんTOEIC®テストの問題にこのような言説は出ないでしょうが、様々なworkplaceのinteractionsで必要な英語能力を測定します。

それに対してTOEFL iBT®テストは、アメリカの大学、大学院を中心に、英語を教育媒体とする大学、大学院が求めるアカデミック英語スキルの基本的能力を測定するテストであるので、上述した通り、 アカデミックなformal、frozenスタイルの英語が中心になります。TOEIC®テストのスコアでは代用できません。また、グローバル企業でもアカデミック英語能力を要することから、working visa申請時にTOEFL iBT®テストのスコアの提出を求められるでしょう。

日本は明治維新より150年以上英語教育に力を入れてきました。最近では小学校から大学に至るまで主要科目として10年以上も学習しているのですから、最低workplaceでの英語力が付かなければなりません。そして、高校や大学受験の主要必修科目ということであり、アカデミック英語の基礎を身に付けることが期待されます。

155回で紹介した慶應義塾大学SFCと立命館大学でのプロジェクト発信型英語プログラムは、その目標を掲げて立ち上げたプログラムです。以下、立命館大学生命科学部・薬学部での筆者在職中2008年から2014年本プログラムProject科目を例に説明します。使用テキストは『プロジェクト発信型英語:Do Your Own Project In English Volume 1』(鈴木佑治)及び『プロジェクト発信型英語:Do Your Own Project In English Volume 2』(鈴木佑治)です。本テキストの初版は郁文堂から、改訂版は南雲堂[5]から出版された授業シラバス型テキストです。セメスター制、週1コマ90分、15回を想定し、1年次と2年次、合計2年、4セメスターを通し、日常のカジュアル・セッティングのprojectから始めて徐々にアカデミック・セッティングのprojectに移行しながら、アカデミック英語の基本スキルを身につけます。郁文堂版テキストの目次から4セメスター60回分の授業概要を記します。

 

【VOLUME1】(1年前期、後期)
PART I  SELF-APPEAL, MINI-PROJECT & MINI-PRESENTATION(1年目前期15週)
UNIT 1  ウォーミング・アップ1: 自己紹介と他己紹介
UNIT 2  ウォーミング・アップ2:自己アピール
UNIT 3  リサーチ・スキルズ1:リサーチとは10
UNIT 4  リサーチ・スキルズ2:リサーチの概要15
UNIT 5  リサーチ・スキルズ3:ミニ・プロジェクト(1)アイディアの整理とテーマ19
UNIT 6  リサーチ・スキルズ4:ミニ・プロジェクト(2)リサーチ方法の多様性
UNIT 7  プレゼンテーション1:オーラル・プレゼンテーションのための原稿
UNIT 8  プレゼンテーション2:〔中間発表〕ミニ・プレゼンテーション(1)
UNIT 9  プレゼンテーション3:〔中間発表〕ミニ・プレゼンテーション(2)
UNIT 10  プレゼンテーション4: 質問をして答える(1) わりこみと繰り返し37
UNIT 11  プレゼンテーション5: 質問をして答える(2) 確認と説明41
UNIT 12  成果のまとめ1: Written Presentation
UNIT 13  成果のまとめ2:〔最終発表〕ミニ・プレゼンテーション(1)
UNIT 14  成果のまとめ3:〔最終発表〕ミニ・プレゼンテーション(2)52
UNIT 15  成果のまとめ4:〔最終発表〕ミニ・プレゼンテーション(3)54

 

PART II  PROJECT, RESEARCH, DISCUSSION & PRESENTATION (1年目後期15週)
UNIT 16 リサーチ・スキルズ5:プロジェクトの立ち上げ:リサーチとは?
UNIT 17 リサーチ・スキルズ6-1:リサーチの準備(1)インタビューによるデータ収集
UNIT 18 リサーチ・スキルズ6-2:リサーチの準備(2)アンケート(questionnaire)によるデータ収集
UNIT 19 リサーチ・スキルズ7-1:リサーチの準備(3-1)ビデオクリップ等のマルチメディア資料のサマライゼーション等 [1]
UNIT 20 リサーチ・スキルズ7-2:リサーチの準備(3-2)ビデオクリップ等のマルチメディア資料のサマライゼーション等 [2]
UNIT 21 プレゼンテーション6: [中間発表] ミニ・プレゼンテーション(1)
UNIT 22 プレゼンテーション7:[中間発表] ミニ・プレゼンテーション(2)
UNIT 23 リサーチ・スキルズ8-1:リサーチの準備(4-1)パラグラフ・リーディング [1]
UNIT 24 リサーチ・スキルズ8-2:リサーチの準備(4-2)パラグラフ・リーディング [2]
UNIT 25 リサーチ・スキルズ9-1:リサーチの準備(5-1)サマリーを書く [1]
UNIT 26 リサーチ・スキルズ9-2:リサーチの準備(5-2)サマリーを書く [2]
UNIT 27 リサーチ・スキルズ10:アウトラインを書く
UNIT 28 成果のまとめ1: [最終発表] プレゼンテーション(1)
UNIT 29 成果のまとめ2: [最終発表] プレゼンテーション(2)
UNIT 30 成果のまとめ3: [最終発表] プレゼンテーション(3)

 

【VOLUME 2】(2年前期、後期)
PART III GROUP PROJECT, DISCUSSION, DEBATE & PANEL DISCUSSION(2年目前期15週)
UNIT 31 プレゼンテーション8:グループ・プレゼンテーション(1):グループで共通テーマを考える
UNIT 32 プレゼンテーション9:グループ・プレゼンテーション(2):ディスカッション
UNIT 33 プレゼンテーション10:グループ・プレゼンテーションの表現を学ぶ
UNIT 34 プレゼンテーション11:ディベートとパネル・ディスカッションの方法
UNIT 35 ディベート1:ディベートの表現とシミュレーション
UNIT 36 ディベート2:表現とミニ・ディベート(1)
UNIT 37 ディベート3:表現とミニ・ディベート(2)
UNIT 38 パネル・ディスカッション1:パネル・ディスカッションの表現とシミュレーション
UNIT 39 パネル・ディスカッション2:表現とミニ・パネル・ディスカッション(1)
UNIT 40 パネル・ディスカッション3:表現とミニ・パネル・ディスカッション(2)
UNIT 41 プレゼンテーション12:最終発表の準備(1)
UNIT 42 プレゼンテーション13:最終発表の準備(2)
UNIT 43 プレゼンテーション14:最終発表の準備(3)
UNIT 44 成果のまとめ1: [最終発表]  グループ・プレゼンテーション(1)
UNIT 45 成果のまとめ2: [最終発表]  グループ・プレゼンテーション(2)

 

PART IV: ADVANCED PROJECT, ACADEMIC WRITING & PRESENTATION(2年目後期15週)
UNIT 46 Introduction to Advanced Project(Academic Writing and Presentation)
UNIT 47  Introduction to Academic Writing:アカデミック・ライティングとは
UNIT 48 Prewriting 1 : Free writingを通してアイディアを練る
UNIT 49 Prewriting 2 : 情報を集める
UNIT 50 Drafting 1 : 本論のパラグラフ・ライティング(1)
UNIT 51 Drafting 2 : 本論のパラグラフ・ライティング(2)
UNIT 52 Drafting 3 : 本論のパラグラフ・ライティング(3)
UNIT 53 Drafting 4 : 序論の書き方
UNIT 54 Drafting 5 : 結論の書き方
UNIT 55 Drafting 6 : 校正と参考文献の作成
UNIT 56 Drafting 7 : アブストラクトを書く
UNIT 57 Preparing Academic Presentation (Poster Presentation) : 最終発表の準備
UNIT 58 成果のまとめ1 : [最終発表]  アカデミック・プレゼンテーション(1)
UNIT 59 成果のまとめ2 : [最終発表]  アカデミック・プレゼンテーション(2)
UNIT 60 成果のまとめ3 : [最終発表]  アカデミック・プレゼンテーション(3)

 

本プログラムと本テキストの考え方、内容、進め方、評価方法などついてはテキストに付しました。大雑把に言うと、VOLUME 1のPART 1で日常の卑近な事柄について英語でコミュニケーションすることにより 親密、カジュアル、インフォーマルなスタイルをカバーします。PARTⅡでインフォーマルからフォーマルなスタイルの英語でプロジェクト活動ができます。恐らく、多くの企業で一番求められる英語力です。VOLUME 2はアカデミック・セッティングのフォーマルスタイルをカバーします。 PART lllはグループ・プロジェクトを通してアカデミック・セッティングのフォーマル・ディベートを行い、PART IVはやや専門的なプロジェクトを通してacademic paperを執筆し(ポスター)presentationをします。英語圏の大学や国際的企業で求められるフォーマルな英語スキルを身につけます。

2008年〜2014年の在籍中、立命館大学は全学生に1年次と2年次の前期に1回ずつTOEIC® IPテストを課しており、本プログラムを導入した生命科学部と薬学部では習熟度テストとして使用しました。両学部に予算を付けてもらい2年次終了時にも受けられるようにしました。拙著『グローバル社会を生きるための英語授業:立命館大学生命科学部・薬学部・生命科学研究科プロジェクト発信型英語プログラム』(KDP/Amazon)でも紹介した通り、全履修者平均点はぐんと上がりました。TOEIC®テストが目論むworkplace英語コミュニケーション能力は十分ついたと確信しました。

VOLUME 2はアカデミック英語を対象としており、TOEFL ITP®テストを導入してその習熟度を測りたかったのですが、できなかったのが心残りです。特に、3年次の専門英語ProjectではNature誌から筆者が選んだ12の記事を収録したReadings in Science in Association with Nature(鈴木佑治 南雲堂)[6]を使い、専門テーマのprojectを行い、科学におけるアカデミック英語の基本スキルを身に付けました。この時点でTOEFL ITP®テストをと願い出たところ希望者のみ受けられるようになりました。

慶應義塾大学S F Cでは総合政策・環境情報学部1年生全員にTOEFL ITP®テストを受けさせクラス分けしました。拙著『英語教育グランドデザイン:慶應義塾大学S F Cの軌跡と展望』(慶應義塾大学出版会)で紹介したように、筆者はその下位クラスを担当し、上記テキストの前身テキストを使いました。1年間で中には帰国子女クラスを凌ぐpaperを書くなどの成果を上げる学生さんが続出し、TOEFL ITP®テストを受けたら高得点を上げれと思えます。TOEIC®とTOEFL®換算で行くと筆者がSFCで担当した学生さんたちと立命館の両学部の学生さんたちの1年次の英語力は同程度であったことから同じような成果を上げたのでしょう。

TOEIC®テストとTOEFL®テストの違いをよく聞かれますが、以上のようなスタイル論的違いがあります。日本は明治維新より150年以上、そして、中等学校(今では小学校)から大学まで少なくとも8年英語を主要科目として学習させているわけですから、フローズンから親密に至るまでのあらゆる状況の英語でコミュニケーションできるようになることが求められます。日本はTOEFL iBT®テストでは後塵を排しております。留学を考えている読者は待ったなしです。その後SAT(by The College Board), GRE (by ETS ), GMAT(by Graduate Management Admission Council , LSAT(by Law School Admission Council ),  MCAT (by Association of American Medical Colleges )など、更に難しいテストが待ち受けているからです。

2022年3月24日記

 

[1]Open Up to France with the TOEFL iBT® Testを見ると、フランスでも多くの大学、大学院が英語によるプログラムを出しており、TOEFL iBTテストのスコアの提出を求めています。
[2] 第2言語(second language)はofficial languageではありません。後者は国や地方自治体などに制度化された言語ですが、前者は社会的趨勢によるものです。ちなみに、英語は英国でも米国でもofficial languageとして制定されていません。実質的にはそのようなステタスを持つのでthe de facto official languageと言われています。
[3] “The Isolation of Styles” In Readings in the Sociology of Language. J. A. Fishman ed. Mouton,1968.  pp185-191.
[4] バイリンガル(bilingual speaker)は2つの言語を併用できる人のことです。2つの方言を併用できる人はbidialectal speakersと言います。また、bilingual speakerとbidialectal speakerが言語や方言を切り替えることをcode-switchingと言い、それに対応してスタイルを切り替えることをstyle-shiftingと言います。
[5] 2008年出版『プロジェクト発信型英語:Do Your Own Project In English Volume 1』(鈴木佑治KDP/Amazon)の最新版、2009年出版『プロジェクト発信型英語:Do Your Own Project In English Volume 2』の最新版です。
[6] 2013から2014年まではScience Reader Ⅱ (鈴木佑治他McMillan絶版)を使用した。その後は Readings in Science in Association with Nature(鈴木佑治 南雲堂)を使用しています。

 

 

鈴木佑治先生
慶應義塾大学名誉教授
Yuji Suzuki, Ph.D.
Professor Emeritus, Keio University

#鈴木佑治先生

 


上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。


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英語圏に限らず、世界の大学・大学院、その他機関で活用されています。また日本国内でも大学/大学院入試、単位認定、教員・公務員試験、国際機関の採用、自己研鑽、レベルチェック、生涯学習など活用の場は広がっています。

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