即興的な「発話力」と「対話力」を育成する
- 目次
- (1)即興的な「発話力」を育成する「ワードカウンター」
(2)リテリングで前時までの復習
(3)学習課題の把握
(4)第1回ディスカッション
(5)本時の学習
(6)ディスカッションの準備
(7)ペアで立ってディスカッション(2分間)
(8)数人が討議内容を全体に報告する(教師との即興ディスカッションなどを通して)
(9)気づきをReflection Sheet(ワードカウンターの裏面)に書く)
(10)授業は家庭学習と次時とパフォーマンステストにつなげる
(1)即興的な「発話力」を育成する「ワードカウンター」
私の勤務校では、生徒の4技能を育成する英語授業に全職員で取り組んでいます。全学年でスピーキング力を鍛える上で重要な役割を果たしているのが「ワードカウンター」という「魔法の紙」です。
これは、1~150の数字が印字されたA4用紙で、2人1組で相手の「発話語数」をカウントするのに使います(参考:『即興で話す英語力を鍛える!ワードカウンターを活用した驚異のスピーキング活動22(目指せ!英語授業の達人)』明治図書/西巌弘 (著))。自分の発話語数が数値に表れるので生徒は自然に英語を話し続けようとします。
この用紙は色々なスピーキング活動に使えます。例えば「将来の夢」や「週末の予定」など日常的な話題に関する即興的な「モノログ」や、教科書の内容を自分で語る「リテリング」などです。
これらの活動をほぼ毎時間継続して行うことで生徒の「発話力」を育てています。現在では、ある程度の時間責任をもって一方的に英語を「発話」する力は付いてきたので、次の段階として、双方向のやりとりを即興で行う「対話力」を育成するステージに入っています。
その事例として、高校1年生のコミュニケーション英語Ⅰの授業で、「リテリング」(発話力)と「ディスカッション」(対話力)を中心とした1時間の様子をご紹介します。
(2)リテリングで前時までの復習
授業の最初はリテリングから始まります。これは、前時までに学んだ本文の内容をペアになって1人1分間ずつワードカウンターを使って語り合う活動です。たとえば前時までにセクション②を終えていたらセクション①と②をまとめてリテリングします。こうして授業の最初にリテリングを取り入れることで、前時までの「復習」となり(生徒は自宅で練習してくる)、授業の「ウォーミングアップ」と「プレゼン力」を向上させる機会となります(リテリングはShort Presentationと呼んで、相手を巻き込む工夫をすることを促している)。ペア練習の後には、全体から1名がくじなどで選ばれて全体発表することになっているので、ペア練習にも熱が入ります。
(3)学習課題の把握
リテリングが終わったら、「本時のねらい」と授業の最後に行う「ディスカッションの議題」を全員で確認します(授業前に板書しておく)。本文内容に関連したディスカッションの議題をこの段階で示すことで、生徒は授業の最後に何を求められるか分かるので、その答えに関する内容を知りたくなり、本文に対して課題解決的な主体的な学習姿勢になるのです。例えば、授業前に次のように簡単にその日の目標を板書しておきます。
①To retell section L.5①&②
②To understand section③&discuss the following topics.
A)To develop a wild area for money. Good or Bad? Why?
B)How do you understand animals?
(4)第1回ディスカッション
ディスカッションの議題を確認したらすぐに、ペアで1回目のディスカッションをしてみます。この段階では十分には内容のある話はできません。本校では予習を課していないからです。ここでの目的は、1回話してみて十分に話せないことを認識した上で、「もっと知りたい、もっと話したい」と本時の授業内容に対して前向きな学習姿勢を引き出すことです。
(5)本時の学習
生徒はその後、上記のディスカッションの議題を頭に入れつつ本時の学習を進めます。新出単語を学び、本文のリスニングやリーディング(TF、QAなど)、さらに、重要な文法・語法等の英作、音読(リピーティング)などの活動を行います。そうした活動をしつつ、生徒は最後のディスカッションに向けて情報のインプットや思考作業を続けています。
(6)ディスカッションの準備
最後にいよいよディスカッションの時間です。最初に2つの議題のうちどちらか好きな方をペアで選択してそのトピックから話し始めます(時間があれば次に移る)。話しにくいトピックよりは話しやすい議題の方がいいですし、物事を自分で選んで自分で決める「自己選択・自己決定」は、生徒の主体性を高めることにつながると言われています(自己決定理論)。
議題を選んだら、生徒は各自で数分間ディスカッションの準備をします。たとえば本文の該当部分を黙読し直したり、音読・暗唱をして使える表現のインプットをしたり、自分の体験などからキーワードをメモしたりします。この2分間程度の個人活動(準備)の時間を保証することは、ディスカッションの質を高める上でとても大切です。思いつきだけの「浅い」ディスカッションを避けることができるからです。
(7)ペアで立ってディスカッション(2分間)
いよいよ本番です。これは立って行います。スピーキングは立って行うだけでも生徒の集中度は大きく向上します(先生方も体験されてみると活動に集中できることがよく分かると思います)。
ディスカッションのときは,「本時の内容について2分間話し合いなさい」と漠然とした指示をするよりも、議題を与える方が生徒は断然話しやすく授業内容を活用しやすくなるようです。たとえば、地雷について学習したセクションでは、“What are mines?”“Why do they exist?”などの議題を示すことで、「本文内容の一部を活用して表現や内容を身に付ける」ことや,議論に対してsomething new(自分の意見や他教科・読書等での既習内容)を加えて「創造性を発揮する」こともできるようになります。これらは「暗記・再生」型の授業から「思考・表現」型の授業に移行する上で重要だと考えています(「深い学習」にもつながりやすい)。
(8)数人が討議内容を全体に報告する(教師との即興ディスカッションなどを通して)
ペアでの2分間ディスカッションが終わったら、全体から数名を指名(ランダムに)して、討議内容の報告(英語で)をしてもらいます。生徒がどのような話をしたか(内容)や英語力の確認ができ、生徒にとっては他の生徒のパフォーマンスから刺激を受ける時間にもなります。
(9)気づきをReflection Sheet(ワードカウンターの裏面)に書く
最後に、本時の学習から気づいたことや学んだことを各自でReflection Sheetに記入します。ワードカウンターの裏にその欄を作っています。記入欄は2つあり、1つは「他者から学んだスキル欄」で、人から学んで良いと思ったスキルをいつでも書き込めるようになっています(主体的な学習を促す)。もう1つは活動直後に英文を書いたり、感想や気づきを記したりするためのスペースです。
(10)授業は家庭学習と次時とパフォーマンステストにつなげる
こうしたスピーキング力を育成する上では、「指導と評価の一体化」という考え方が大切であると考え、定期テストの次の時間にはリテリングなどのパフォーマンステストを行っています。生徒はテストがあることが分かっているので、毎時間、よりしっかりと練習を続けるわけです。今後もこれらの指導を続けてさらにレベルアップし、TOEFL® テストの「読み聞きした英文の口頭サマリー」や「意見表明」などのタスクにも対応できる英語力を育てていきたいと思っています。目標は、海外留学にも対応できる英語力です。
著書等(取り組みの詳細はこちらでご確認いただけます)
○『即興で話す英語力を鍛える!ワードカウンターを活用した驚異のスピーキング活動22(目指せ!英語授業の達人)』明治図書/西巌弘(著)
○『授業が変わる! 英語教師のためのアクティブ・ラーニングガイドブック (目指せ! 英語授業の達人) 』明治図書/上山晋平(著)
○『45の技で自学力をアップする! 英語家庭学習指導ガイドブック (目指せ!英語授業の達人17) 』明治図書/上山晋平(著)
○DVD『意欲アップ!習慣定着!「楽しくて効果的な家庭学習法」』 ジャパンライム/上山晋平
○『高校教師のための学級経営365日のパーフェクトガイド できる教師になる! 3年間の超仕事術』明治図書/上山晋平(編著)
○『授業で使える全テストを網羅! 英語テストづくり&指導 完全ガイドブック (目指せ! 英語授業の達人26) 』明治図書/上山晋平(著)
福山市立福山中・高等学校
上山晋平先生
広島県福山市出身。福山市立福山中・高等学校教諭。英語教育・達人セミナーや学会など各種研修会等で幅広く発表を行う。著書に、『授業が変わる! 英語教師のためのアクティブ・ラーニングガイドブック (目指せ! 英語授業の達人) 』、『高校教師のための学級経営365日のパーフェクトガイド できる教師になる! 3年間の超仕事術』、『授業で使える全テストを網羅! 英語テストづくり&指導 完全ガイドブック (目指せ! 英語授業の達人26) 』、『45の技で自学力をアップする! 英語家庭学習指導ガイドブック (目指せ!英語授業の達人17) 』(以上すべて明治図書)があり、DVDに『意欲アップ!習慣定着!「楽しくて効果的な家庭学習法」』(ジャパンライム)がある。中学校検定教科書COLUMBUS 21 ENGLISH COURSE(光村図書)編集委員。
広島県福山市にある市立の中高一貫校。1899年(明治32年)に私立の女学校として創設。1969年(昭和44年)に福山市に移管。2004年(平成16年)に中学校を併設し、広島県東部はじめての併設型公立中高一貫教育校となる。2014年(平成26年)に創立115周年(市移管45周年)を迎えた。海外との交流が盛んで、グローバル教育やESD(持続可能な開発のための教育)などを積極的に展開している。
URL:http://www.edu.city.fukuyama.hiroshima.jp/kou-ichifuku/
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。
サポート・関連情報
団体・教育関係者対象セミナー・イベント・ワークショップ・学会
ETS Japanでは英語教員対象を対象としたTOEFL iBT®︎テストの指導法のセミナー、ワークショップをはじめ、英語教育関連の様々な学会に参加し、TOEFL®テストに関する情報を提供しています。
TOEFL iBT®︎テスト特別受験制度
TOEFL®︎テスト日本事務局であるETS Japanでは、文部科学省より要請を受け、小学校の教員、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校及び高等専門学校の英語教員(常勤に限る)を対象にしたTOEFL iBT®︎テストの特別受験制度を設けています。
団体対象TOEFL iBT®︎テストバウチャー
TOEFL®︎テスト日本事務局では、教育機関・企業等の団体を対象にしたTOEFL iBT®︎テストバウチャーを取り扱っています。
団体がバウチャーを事前に購入、受験者にバウチャーを提供いただくことで、TOEFL iBT®︎テスト受験料の日本円での一括払いが可能になります。
団体・教育関係者向けNewsletter
ETS Japanでは、団体・教育関係者向けに新着情報メールを毎月1回の定期配信と不定期の臨時号を配信しています。定期配信の内容は、TOEFL®テスト、ETSプロダクト、ETS、ETS Japanの新着情報やセミナー・イベント情報に加えて、よくある質問の共有やTOEFL® Web Magazineの関連記事のご紹介などをお届けしています。無料で登録できますので、ぜひご活用ください。
TOEFL ITP®テストプログラムは、学校・企業等でご実施いただける団体向けTOEFL®テストプログラムです。団体の都合に合わせて試験日、会場の設定を行うことができます。全国500以上の団体、約22万人以上の方々にご利用いただいています。
Criterion®(クライテリオン)を授業に導入することで、課題管理、採点、フィードバック、ピア学習を効率的に行うことを可能にします。
英語圏の大学・機関だけでなく、世界中の大学・機関で、公式スコアとして留学や就活などに活用されています。コンピュータ上で受験し、スピーキングは回答音声をマイクを通して録音、ライティングはタイピングで回答します。
自宅受験TOEFL® Essentials™テスト
2021年から自宅受験型の新しいテストとしてリリースされました。約90分の試験時間、短い即答式タスクが特徴のアダプティブ方式の導入されています。公式スコアとして留学や就活などにご利用いただけます。