生徒の好奇心を引き出し、4技能をつなげて伸ばす-
はじめに
下の写真にある表現学習シートを使い、毎時間授業の初めに小テスト①を行います(小テスト②は後述します)。
左側に母語訳やイラストなどのイメージを、右側に英語の表現を書く欄があります。学生には、自宅で好きな洋画や英語のテレビドラマを視聴し、「へぇー、なるほど、そう言うのか」と、ちょっぴり感動した表現を別の紙に書き留めるように伝えます。そして毎週の授業までに、写真の表現学習シートの左側だけを埋めてくるように指示します。授業の初めの小テスト①では、左のイメージ・母語訳を見て、英語の表現を書くわけです。写真の表現数は10ですが、実際は裏面もあるので1週間に20ずつ表現がストックされていきます。こうすることで、学生は自然と興味、難易度共に楽しめる教材を選ぶことになり、原則(a)はクリア、また毎週20の表現をストックするには、自宅で何度も映画やドラマを視聴することになり、原則(b)も踏まえられます。
(1)Warm up
私の授業は冒頭に広島市立舟入高等学校の西巌弘先生が考案されたワードカウンターに取り組むことから始まります。後に読むテキストのフックとなる簡単なトピックを生徒に与え、生徒たちはそれに沿って30秒で考え、30秒間各自で練習し、パートナーと交互に1分間で話をまとめます。生徒たちには①Assertion, ②Reason, ③Evidence, ④Assertionの構造で話すよう指導し、英文特有の論理展開を習得することと、自分で言いたいことを即興的かつ論理的に話す経験を積むことを目的にこの活動を取り入れています。当然、完璧な英語で話すことはなかなかできませんが、多少のエラーには目をつぶってでも、英語で自分の意見をまとめる経験をたくさんさせたいと考えています。
それぞれの機会は短時間でも、蓄積していくことで大きなボリュームになり、自分の言葉として発した経験が自信となって生徒たちのfluencyに少なからず良い影響があると実感しています。
(2)Introduction
さてWarm upで生徒のアタマを英語モードに切り替えたら、本時のトピックと生徒たちを結びつけるために、彼らにとって身近な事柄からテキストの内容面に迫る問いを投げ、テキストを読む「必然性」を喚起するよう心がけています。例えば世界の水不足についてのテキストを扱う際は、生徒たちが無自覚に使う水が実は貴重な資源であることを提示し、「なぜ一見、豊富な水資源に恵まれているように思える地球において水不足が発生するのか?」という問いを立て、本文へと導入します。
例えばTOEFL® テストや大学入試で出題されるようなアカデミックな題材は、ときに生徒たちにとって具体的にイメージしづらく、遠い世界の出来事のように思えてしまいがちです。そこで生徒たちの知的好奇心をくすぐるために、自分たちと題材との関連性を意識させることで生徒たちの動機に火を点けられるよう努めています。
(3)「不足の感覚」を残すListening
語彙リストで簡単に新出語彙を導入し、本文のListeningに入ります。ここでは何度も繰り返し聞かせることはせず、概要の理解を目指し、話している内容はおおよそ分かるけれど、細かい部分が聞き取れず気になるという状態に持っていきます。「聞き取れない」という不足の感覚を敢えて残すことで読むことへのモチベーションが高まり、その後のReadingへの動機付けになるからです。
実際の授業では一度音声を流すごとにペアで内容を確認し、互いに得られた情報を共有させることで、学力差のあるクラスでも諦めずについてこられるように工夫しています。机間巡視をしながら生徒のメモを確認し、様子を見ながら2、3回音声を流す程度で切り上げています。
(4)概要と細部を読むReading
Listeningで捉えた概要を確認するために全体をざっくり読んだら、細部を読み取るReadingを行います。細部を読ませる際にはT/F問題や内容理解の問題を用いています。
その後、英語でのQ&Aで本文の内容を確認しながら、本文の内容を視覚化したPicture cardsを本文の論理展開が分かるように黒板に配置し、本文の内容を英語でretellして見せます。Retellingは読んだ内容・聞いた内容のポイントを的確に掴み、自分でまとめられるようになることを意図して行っています。
生徒に取り組ませる際には私がモデルとなってretellして見せ、生徒たちにも制限時間を設けて取り組んでもらいます。当然、生徒たちはスムーズに行うことができないため、ここでも「不足」を感じて積極的に本文の音読に取り組みます。
音読は本文の構造を視覚化したスクリプトを使い、同時通訳トレーニングの手法を用いて行なっています。
一文一文を細かく訳すことはしていませんが、音読が「空(から)読み」にならないよう心がけています。
(5)Essay Writing
最後に授業のまとめとして、生徒たちには本文のテーマに基づいたEssay Writingに取り組んでもらいます。読んだテキストとエッセイのテーマを関連づけることで本文中の内容・表現や論理展開を振り返るようになり、inputとoutputを繋げられるようにしています。
SpeakingやWritingといったoutput課題に取り組ませるためには評価基準がとても大切です。私はTOEFL iBTテストのルーブリック(*)を応用し、適宜テーマに沿った観点を評価基準に加えながら運用しています。以前は生徒から提出されたエッセイを細かく添削していましたが、多数のエッセイを添削する労力はとても大きく、その手間ゆえに書かせる回数が極端に少なくなってしまっていました。
しかしルーブリック評価を取り入れ、評価の観点が変わったことで添削の手間が随分と減り、生徒も自己点検がしやすくなりました。ルーブリックは表現一つで評価のあり方が変わってしまうため、作成が大変です。その点、TOEFL iBTテストのルーブリックは非常に良くできており、生徒が次のレベルに伸びるためにはどのような力を伸ばせば良いのかが明確になるので、課題の内容に合わせて項目を追加しながら参考にしています。
今後の課題
現在行なっている授業では、大学受験だけをゴールにせず、その先も続いていく英語学習の中で、自分がどのように学べば力を伸ばしているのかを知ることができるように心がけています。
とはいえ誰にとっても万能な方法はなく、個別の学習ニーズに合わせる必要性があります。一言に「英語を話すのが苦手」という生徒にも、語彙が不足しているのか、発音ができないのか、最低限の文法力が不足しているのか、あるいは話し出すきっかけとなるような決まり文句を知らないのか、展開のロジックを知らないのか、単に話し慣れていないだけなのか、その原因は様々だからです。しかし一人の教員にできることには限界があるので、教員でチームを組んで方向性を確認し、互いに補い合いながら授業を組み立てていくことと、個々の生徒が各自の課題に合わせながらよりアダプティブに学べるようにICTをうまく取り込んでいく必要性を感じています。
また自分自身の学習経験に照らし合わせてみても、トレーニングを続ける効果が間違いなくある一方、それを続けるには強い動機が必要です。日常生活の場でもある学校において、毎回の授業で「関心を持って学ぶ」という生徒の姿勢を引き出すことができるように、より彼らの好奇心を刺激する必要があると感じています。
鎌倉学園中学校・高等学校
高木俊輔先生
横浜市出身。慶應義塾大学文学部卒業後、2006年4月より現職。高校時代にAFS年間派遣留学生として1年間、アメリカ・テキサス州に滞在。共著書に『Genius コミュニケーション英語 I・Ⅱ・Ⅲ』(大修館)。『改訂版LANDMARKコミュニケーション英語』(啓林館)、編集協力。趣味は歌うこととバスケットボール。大学時代には青春18きっぷを握りしめ、ストリートミュージシャンとして各地を回っていた。「転んでもただでは起きない」をモットーに、生徒が輝く授業を目指して日々奮闘中。
鎌倉市にある仏教系中高一貫男子校。「社会の正しい道理を知り、心清くして悪を恥じ、不正を行わない」という「礼義廉恥」の校訓のもと、「自主自律」の禅の精神を現代に受け継ぎ、「知・徳・体」のバランスの取れた人間形成を目指して1921年(大正10年)に創設。クラブ活動が盛んで、剣道部、陸上部、ボクシング部、弁論部などは関東大会や全国大会でも活躍している。近年ではオーストラリア、北米、ハワイ、アジアでの国際交流に力を入れており、グローバル社会を生き抜く人材の育成にも力を入れている。
URL:https://www.kamagaku.ac.jp/
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